イブン・ファドラーン

Nordica Mediaevalisによれば、イブン・ファドラーンの『ヴォルガ・ブルガール旅行記』が東洋文庫から9月に出るらしい。すでに日本語訳もあるのだが、それの改訳決定版のようだ。 ファドラーンは北欧神話の史料としても使われるが、ブルガール地方のテュルク…

龍蝕(後編)

この記事は適当に思いつくまま書き連ねていっているので、だんだんと書いているほうが混乱してきました。 ところで、以前紹介したように、カバラ思想の原典である『形成の書』(3〜6世紀)には、宇宙全体にかかわる「テリ」なる謎の語が現れています。神は宇宙…

龍蝕(中休み編)

前回の続きになりますが、宇宙を取り囲む巨大なドラゴンという考え方は朧気ながらも中央アジアやトルコのテュルク系諸民族に伝わっていたようです。Journal fo Folklore Researchのウロボロス論文ではイスラーム圏の事例がすっぽり抜け落ちていて残念なとこ…

龍蝕(前編)

日食が始まる前にこういうのを書いとけば少しはこのブログを見てくれる人が増えただろうに……と思いつつ、流れに棹差せない形で、あまり知られていない「日食と竜=ドラゴン」について少し書いてみようかと思います。そもそも天文学や占星術では、天球上、食が…

新刊・近刊情報

前の「新刊近刊情報」から3ヶ月くらい経っているのでピックアップできないのも多いとは思いますが、いちおう。あ〜、「洋書新刊紹介」なんてのもしてみたいけど、洋書版元のチェックなんてしたことないのだっ!!

まぁそうはいっても洋書でも気になる新刊に偶然めぐり合うこともあるわけで(おもにAmazonの「おすすめ」でかな……笑)。 たとえば半年前に出たのがGregory ForthのImages of the Wildman in Southeast Asia: An Anthropological Perspective(『東南アジアにお…

ウガリット神話のケルブ

墨東ブログさん*1のhttp://d.hatena.ne.jp/molice/20090711/1247268862#20090711f2ってエントリの注に「なお、カナン神話(ラス・シャムラ文書)の中には一箇所だけ「ケルブ(ケルビムの単数形)」についての言及がある」ってあるけど、これは何かの間違いか…

新刊・近刊ピックアップ

新刊情報っ!って、前からもう何ヶ月も経ってしまっていて全部ピックアップするのには時間がかかりそうなので、いくつか面白そうなのだけ。狩野博幸、湯本豪一『日本の図像神獣霊獣』 出版社ページによると「本書では、河鍋暁斎、伊藤若冲、歌川国芳らさまざ…

動物と植物の合いの子

「幻想動物の事典」のようなウェブサイトをやっていると時々問題になるのが、今回のエントリのタイトルにあるような生き物です。たとえばマンドレイク、スキタイの子羊、バーナクル。植物なんですが、動物のようにも見える厄介なやつら。 そんな厄介なやつら…

日本神話と比較神話学のウェブサイトが……

記紀を中心とした日本神話について詳細な解説と読解がなされている日本神話の御殿さんのページの「神話形式・類似神話」が試験的に復活・公開されているのに気づきました(試験公開中なので、リンクはしません)。なかなか伝統的な日本でいうと大林太良系の民…

先史世界の初期絵画表現

先史世界の初期絵画表現っていう副題の本が出ているようです。メインタイトルは『太古の光景』。 皆さんは自然史博物館やテレビ番組で「太古の光景」(たいていは恐竜たちが闊歩している)をご覧になったことがあるでしょう。本書はその「太古の光景」の19世…

あなどるべからず文庫本系

あんまりたくさん出版されているんで紹介する気もなくなっていた文庫本系のファンタジー入門本ですが、どうやらこの本とその著者は、少し違うらしい。まだ読んでないけど。「堕天使」がわかる サタン、ルシフェルからソロモン72柱まで (ソフトバンク文庫)作…

事典のサイト構成を完全にWiki型に移行

しました。もう1年近く、ろくに更新していなかったんだなあ、と思います。 去年8月に予告しておいた通り、pukiwikiを利用してサイト構成を完全に更新しました。 旧ページは残しておきますが、全ページに新ウェブサイト移行へのアナウンスをのっけるのは面倒…

帯を締める位置

久しぶりに日記を書くものだからはてな記法を色々と忘れてしまっている。 それはともかく。Amazonのマーケットプレイスで『コーカサス民話集 森の妖精』ってのを買った。以前住んでいたところの図書館にあったけど、今は近くにないから買ったのです。ロシア…

新刊近刊情報っ

近刊 青土社のページから。中野美代子『ザナドゥーへの道』 相変わらず中野美代子は面白そうなテーマの本を出しますねぇ。 D・C・A・ヒルマン『麻薬の文化史』 細菌学と古典学を学んだという、世界でも数人しかいないでは?という経歴の著者。 ジョン・ハー…

新刊情報

最近更新していないので、いくつか新刊情報を載せてお茶を濁すことにします。まずちくま学芸文庫から、社会人類学の古典が2つ文庫版になって出ていました。マルセル・モースの『贈与論』とメアリー・ダグラスの『汚穢と禁忌』。幻想動物的には後者が関係深い…

少し新刊情報とか

大型書店だと、岩波文庫の2月重版分の『抱朴子』が置かれているかもしれません。今ではたぶん原文がネットで見れるし、岩波版の抱朴子は書き下しだけなので学術的には物足りないかもしれませんが、平凡社版の抱朴子が抄訳、とくに私にとっていちばん肝心な、…

亡霊論的転回

おもに文系学問において、これまで重視されてこなかったことにとたんに注目が集まるようになると、それを〜〜的転回という。 たとえば19世紀末から20世紀前半にかけて、分析哲学やソシュールの構造主義言語学、サピア=ウォーフ仮説などが現れ、20世紀終わり…

神話学を思想としてみる捉え方もあれば、神話学で論じる神話を思想として捉える、という方法もある。たとえばドゥルーズ=ガタリの『千のプラトー』におけるデュメジルやクラストルを通してみた国家-戦争の神話である。 そして神話そのものを思想として捉える…

丑年かあ

牛と神話伝説といえば、なぜか生贄の関係でドロドロしたオカルトちっくなものばかり想像してしまう傾向にあるのですが(『地獄の黙示録』みたくスパッとやってくれればいいのに)、その中で最たるものがクダンと牛女と「牛の首」でしょうねえ。以前……というか3…

よく使われるパスワード第7位

よく使われる危険なパスワードトップ500より。1位 123456 2位 password 3位 12345678 4位 1234 5位 pussy 6位 12345 7位 dragon ←!??!! 8位 qwerty 9位 696969 10位 mustang英米圏ではdragonってpussyと並んで馬鹿が使う言葉の代名詞みたいなものなのか…

2009年の新刊、2008年年末の新刊など

溝口睦子『アマテラスの誕生 古代王権の源流を探る』 「広く北東ユーラシア世界とのかかわりを見すえながら」が神話学的にツボかもしれない。ここでも出てきた、「王権」というキーワードが……。ちなみに講談社学術文庫から筑紫申真の、まったく同じタイトル…

初めてこの時間帯にメールを送ってみたら、本当に混雑していて送信できなかったw今年もよろしく。

神話学の思想史

単なる神話学の学説史ならともかく、『政治の美学』のような神話学思想史はなかなか探しづらい。たとえばレヴィ=ストロースの『遠近の回想』やデュメジルの『デュメジルとの対話』のような自伝には他の思想家との交流や自分の育った背景が描かれているが、主…

男性結社と1930年代の神話学

神話に興味を持って、それをさらに深めるためにどの方向に行くか、というと色々な道があると思います。神話の伝えられている現地に行ってみる、歴史的背景や風俗を調べてみる、神話を基にした創作にハマる、むしろ自分で二次創作する、原語を勉強してみるな…

近況

ここ数週間Wikipediaから離れている。なぜかやる気が起きなくなってしまった。今となってはそのほうが気楽に思えてきた。岡沢秋さんのブログをみて、初めて『ヘイムスクリングラ』が一般書籍として流通していたことを知る。岡沢さんは第2刷以降のほうが、と…

神話の変容

誰も下の問題に答えてくれないので、ヒントを与えてお茶を濁しておきます。あえてペーガソスではなくペガサスと書いた理由……それはシェイクスピアの『ヘンリー五世』にそのような記述があるからです。βελλεροφῶνをベッレロポーンと書いとけばいい、とかそう…

問題。

ペガサスに乗っている英雄はベレロフォンである。しかしネット上にはペルセウスが乗っているという記述もある。そこで、後者を述べている出典を挙げてください(10点)。

中世ヨーロッパにおけるギリシア神話(少しの陰口)

Wikipediaのギリシア神話の項目が、「第2回秋の加筆コンクール」に参加という名目で、大幅に加筆されています。加筆の経過はとりあえずおいておくとして、現状、神話の歴史が古代から一気に19世紀後半まで飛んでしまっているのが目立つと思います。その点に…

星座は生きている

今年のはじめごろ、「星座は神話によれば動物や怪物や人物が天に上げられた姿なのだけど、そういう神話を語っていた人は、本当に天空にクマだのヘビだの巨人だのが張り付いていると考えていたのだろうか?」と考えたことがあります。 それに関して。ストア派…