西アジア

古典アルメニア語文献に現れる妖怪

数日前にツイッターでいい加減に書いたもの。ガルニク・アサトリアンの論文*1より。彼によると古典アルメニア語文献では21の妖怪名が知られているという。その一覧が以下。ある程度の説明があるものについては「:」のあとに書いたが、多くは語源的考察だっ…

翻訳の続き。

魔方陣 魔方陣は魔除けの制作者や魔術手引書の編纂者の語彙において重要なものとなっていった。とくに12世紀以降のことだ。最初期の魔方陣(アラビア語でワフクwafq)は9つのマスがある3x3の方陣に1から9までの文字/数字が入れられ、縦横斜めどの3つを足して…

ゾロアスター教文献、邦訳

ちくま学芸文庫から伊藤義教訳『原典訳 アヴェスター』が出ました。ガーサーやウィーデーウダードの一部などが訳出されています。ゾロアスター教文献の和訳を普通に入手できる一冊の本にしたものは、もしかしたらこれが初めてでしょうか? そうでないにして…

翻訳の続き

イスラーム魔術全般 しかしながら、古代末期の魔術実践と比べると多くのコントラストがある。もっとも分かりやすいのは、動物(時には人身)供犠が欠如しているということだ。これは古代末期ではよく行なわれていたものだった。イスラーム時代に入っても人形…

クビュなどの情報源

aibaraさんの「幻想世界神話辞典」の新着項目のところを見て、これまで自分にとって謎だったクビュやエチムミなどの出典を初めて知った。マルセル・サンドライユ『病の文化史』という本らしい。(本当はaibaraさんのところの掲示板に書き込みたいのだが、トル…

ジランダではなくユラン

Wikipediaにジランダという項目がある。タタール語に由来する、カザンの象徴としてのドラゴンらしい。しかし綴りがZilantなのになぜか「ジランダ」と表記されている。しかも英語版を読むと、タタール語ではユランないしジュランと発音し、ロシア語に転写され…

フンババ(を)語源(とする)説2題

古代バビロニアの古典文学『ギルガメシュ叙事詩』に出てくる怪物フンババ(シュメール語でフワワ)は人気者だったようで、かなり後のルキアノスやマニ教文書の時代までその名前が伝わっています。それゆえいろんなフンババを語源とするのではないか説がありま…

ウガリット神話のケルブ

墨東ブログさん*1のhttp://d.hatena.ne.jp/molice/20090711/1247268862#20090711f2ってエントリの注に「なお、カナン神話(ラス・シャムラ文書)の中には一箇所だけ「ケルブ(ケルビムの単数形)」についての言及がある」ってあるけど、これは何かの間違いか…

アメリカの博士論文を読む

ときどき、読みたい参考文献情報に、dissertationと書かれているのがあります。 これは「学位論文」のことで、大学の卒業論文の仲間(たとえば修士論文や博士論文)のこと。大学に提出してPh.Dのような称号をもらうための論文で、原則として提出された大学が所…

やっぱりイスラーム

マイナーなものでもすぐに取り上げられることができるぐらいならいいんですが……アラビアの場合、たとえばアジャーイブ(驚異)文献のうち最も重要なアル=カズウィーニーはドイツ語抄訳があるのみだし、動物誌(キターブ・アル=ハヤワーン)で最も有名なアル=ジャ…

CAD

はてなブックマークのほうでChicago Assyrian Dictionaryが未刊除いて全部オンラインで無料で見られるということを書いたのですが、それぞれpdfのOCRで全文検索もできてしまう。なんと便利な。 http://oi.uchicago.edu/research/pubs/catalog/cad/ シカゴ大…

ティアマトはいつからドラゴンであるとされるようになったか

メソポタミア神話に現れる原初の女神ティアマトがドラゴンではない、ということを本ブログでは何年も前から主張してきました。そもそもティアマトのことを知らない人が世の中の大半を占める中でこのような主張を続けていく理由やモチベーションというのは皆…

フンババとベスとメドゥーサ

前記のとおり色んな資料が手に取れる状態にはないので、ウェブ検索でお茶を濁してタイトルの話題に水をさしてみることにする。ぐぐっていたらこんなページを見つけた。 http://www.akademiai.com/content/1p10467702610461/ Antik Tanulmanyokという雑誌の20…

新刊情報 ゾロアスター教

講談社ページによると、以下の書籍が出版される模様。 鎧淳(訳)『バガヴァッド・ギーター』 講談社学術文庫 畑井弘『物部氏の伝承』 講談社学術文庫 青木健『ゾロアスター教』 講談社選書メチエ 注目は青木健さんの本。メチエなので一般向けなのでしょうが、…

サーポパード

livedoorのほうのブログにコメントがあった。 「サーポパードで調べていて・・・・・・」 そんな。サーポパードSerpopard*1なんてマイナーな言葉で一般人が調べてくるなんて、いったい何があったんだ!? と重いぐぐってみた。私のブログ記事とともに、次のが見つ…

ラミア<ラマシュトゥ

その後調べてみると、ラミアラマシュトゥ説はヴァルター・ブルケルトにさかのぼるようだ。Walter Burkert. Orientalisierende Epoche in der greichischen Religion und Luteratur. 1984. ヴァルター・ブルケルト『ギリシア宗教・文学におけるオリエント化の…

リリン、リリム

ヱヴァンゲリヲンじゃないですが、リリン(lilin)がリリス*1(Lilith)の娘たちだという伝承があちこちで紹介されている。でも出典を見たことがない。 そもそもリリンはリリスの複数形男性名詞。リリオト(liliot)が複数形女性名詞になるわけで、少なくともヘブ…

ヘルメス・トリスメギストス

ひさしぶりに神話系サイト無限∞空間の質問、長文用掲示板を覗いたら、ヘルメス・トリスメギストスの話題が。しかもスレストされてる。もう少し定期的にチェックしておけばよかったと思った(いくつか補足したかったから……w)。なのでここで少し。まず・・・ヘ…

イスラームにおけるギリシア神話

前々から知りたかったことです。いったいアラビアに残されたヘレニズムの遺産はどうなったんだ??? でも……こういうタイトルをつけておいてなんですが、ジョン・ウォルブリッジによると、イスラーム化後のアラブ世界では全然ギリシア神話は知られていなかっ…