ヨーロッパ

カトブレパスの話の続き

今年の3月ごろに書いた「カトブレパスの話」では、古代ギリシア・ローマ時代のカトブレパスの出典について調べました。そのとき中世以降の展開も調べておいたのですが、あまりまとまってなかったので未公開のままでした。その後、とくに状況が進捗したわけで…

カトブレパスの話

少し前に途中まで書いていたけど、書き終わりそうにないので、(最近こちらの更新も減ってしまったことだし)途中のきりのいいところまで公開します。 はじめに カトブレパスとゴルゴンが同一視されるという風潮 古代ギリシア・ローマに、カトブレパスという…

ウェールズのドラゴンとウェセックスのドラゴン

J. S. P. Tatlock, 1933, The dragons of Wessex and Wales, Speculum, 8 (2): 223-235のあまり省略してない要約。年代記などの史料に基づいた分析で、ウェールズのドラゴンと呼ばれているものが実際はイングランド起源だったこと、ドラゴンはたいして重要な…

動物と植物の合いの子

「幻想動物の事典」のようなウェブサイトをやっていると時々問題になるのが、今回のエントリのタイトルにあるような生き物です。たとえばマンドレイク、スキタイの子羊、バーナクル。植物なんですが、動物のようにも見える厄介なやつら。 そんな厄介なやつら…

男性結社と1930年代の神話学

神話に興味を持って、それをさらに深めるためにどの方向に行くか、というと色々な道があると思います。神話の伝えられている現地に行ってみる、歴史的背景や風俗を調べてみる、神話を基にした創作にハマる、むしろ自分で二次創作する、原語を勉強してみるな…

神話の変容

誰も下の問題に答えてくれないので、ヒントを与えてお茶を濁しておきます。あえてペーガソスではなくペガサスと書いた理由……それはシェイクスピアの『ヘンリー五世』にそのような記述があるからです。βελλεροφῶνをベッレロポーンと書いとけばいい、とかそう…

中世ヨーロッパにおけるギリシア神話(少しの陰口)

Wikipediaのギリシア神話の項目が、「第2回秋の加筆コンクール」に参加という名目で、大幅に加筆されています。加筆の経過はとりあえずおいておくとして、現状、神話の歴史が古代から一気に19世紀後半まで飛んでしまっているのが目立つと思います。その点に…

星座は生きている

今年のはじめごろ、「星座は神話によれば動物や怪物や人物が天に上げられた姿なのだけど、そういう神話を語っていた人は、本当に天空にクマだのヘビだの巨人だのが張り付いていると考えていたのだろうか?」と考えたことがあります。 それに関して。ストア派…

『聖アントワヌの誘惑』の元ネタ

19世紀フランスの代表的作家ギュスターヴ・フローベールによる『聖アントワヌの誘惑』といえば、砂漠の聖者アントワヌ(アントニウス)が修行中に見る幻想のなかに無数の怪物たちが現れることで有名です(この「業界」では)。日本語訳は渡辺一夫によるものが岩…

キャロル・ローズの続き

キャロル・ローズの事典は前も書いたとおりマイナス面ばかり目立ちますが、個人的には、その出典を探る過程で何冊かの良書に出会えたということについては感謝しなければなりません。 そのうちのひとつが、一年位前にも紹介したWalter StephensのGiants in T…

不破有理「紅いドラゴンの行方」

不破有理さんが『紅いドラゴンの行方 : ウェールズ伝承およびアーサー王年代記におけるドラゴンの表象』という論文を発表しているのを発見。http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php?file_id=14416 2008年のだから最新の論考とい…

巨鳥ヒルアス

図書館で手に取った『アイルランド文学はどこからきたか』という本に、初期アイルランド文学に「ヒルアス」(Hiruath)という幻鳥が出てくるというのを見て、ぐぐってみたらヒルアスに関する論文が少なくとも2つ書かれていることを知り、それを取り寄せてみた…

ヨーロッパ幻想系の新刊

井村君江さんが集大成として『妖精学大全』なる大著をものしたそうで。東京書籍の紹介文によれば「世界的権威による妖精の集大成。欧州の民間伝承のほか,ケルトやギリシア・ローマ神話,中世文学やシェイクスピア,さらに『ピーター・パン』『ハリー・ポッ…

ボッカッチョ『異教の神々の系譜』英語訳

以前話題にしたボッカチオ『異教の神々の系譜』、ラテン語英語対訳版がI Tatti Renaissance Libraryで出版される予定だというのを発見。 http://www.hup.harvard.edu/itatti/forthcoming.html GIOVANNI BOCCACCIO Genealogy of the Pagan Gods Edited by Jon…

『ロマネスクの宇宙』

ずいぶん前に私が紹介して的外れな批判をしたところ、ご本人から指摘のコメント書き込みがあり、冷汗三斗となったことのある学会雑誌所収の論文*1が、(たぶん)出版されるようです。金沢百枝『ロマネスクの宇宙 ジローナの《天地創造の刺繍布》を読む』(東京…

ダストン&パーク『驚異と自然の秩序 1150-1750年』

以前、高山宏が紹介している、ということを紹介したLorraine Daston & Katharine Park, Wonders and the Order of Nature 1150-1750を今、つまみ読みしている(序章だけは全部読んだ……)。なにぶんデカイ本です。これまで買った洋書のなかでは辞典類や画集を除…

ヘカテの別称、検索の様式

あるひとつの情報を求めて複数の人が競合するというのはときどきある。当事者にしてみると、早く正確な情報を得られたほうが価値があるというものだが、「他の人がどのように情報を得ようとしたか」を知ることができる機会があればもっと興味深いことにもな…

西洋中世綺譚集成

シリーズが予告されていたのに最初の1、2冊しか出ずに終わってしまっているというのがよくある。岩波文庫で半世紀以上続刊が出ていないのもある(私の手元にあるのでいうと、『ドイツ民譚集』1948,國松孝二訳は5巻の予定が第1巻だけ出て、そのまま。微妙にマ…

ドイツのカメレオン

昨日、「中の人などいない!」な中国版カメレオンを紹介しましたが、「イメージとテクストの伝承過程でずれが生じる」といえばヨーロッパも同じようなもので、私などすぐに同じカメレオンが以下のようになっているのを思い出しました。 この画像は1491年にマ…

アブラクサスやらウロボロスやら

アブラクサスやウロボロスやグリュコン(Glykon)がグノーシス主義の存在とされるのは、完全な間違いではないとしても、大きな間違いである。実際アブラクサスはグノーシス主義文献や教父の反駁文書に名前が見えるらしいしウロボロスのような蛇も文献に現れる…

ウェールズ国旗

最近、ウェールズの旗もイギリスというかグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の国旗(ユニオンジャック)に入れるべき、という議論があってニュースになったそうです。そこで2ちゃんねらーがあれこれ適当にコラージュして現地に送ったところ、その…

『動物シンボル辞典』のギーヴル

の項目に、ヴィスコンティ家の始祖であるウベルディなる人物がミラノにいたギーヴルを退治して土地を開拓したとある。 ではウベルディとは誰か。探しても見つからない。しかし思わぬところにヒントが。 アリオストの『狂えるオルランド』第2歌25-26詩節 その…

ヴィスコンティ家とギーヴル

ヴィスコンティ家の紋章はギーヴルだとされることがあるが、ギーヴルは古フランス語であってイタリア語ではない。不審に思い調べてみたが、あれはビショーネ(Biscione)またはヴィーペラ(Vipera, ミラノ方言でビッサBissa)といわれているそうだ(参考:イタリ…

ケクロプスも……?

前回テーバイ神話群の分析を紹介しました。そこでレヴィストロースは「たぶんこれケクロプスとかディオニュソスとかあれとかこれとかそれとかでもできるんじゃねーの」と言っていました。 ふと、「ケクロプスって下半身蛇だよな……歩くにくいんじゃないの?」…

オイディプス神話の構造

オイディプスとスフィンクス(スピンクス)の神話は謎をはらんでいる。それ自体が謎を主題とした神話なのに加え、「神話の意味するところ」を探る人々にとってこれほど深層意識を掘り起こしてくれそうな物語もないと思われる。文化人類学の重鎮クロード・レヴ…

ギリシア神話の項目の書き方

Wikipediaにゲリュオンの項目を立てた。リンク先の項目名がゲーリュオーンとなっているのは単にWikipediaの決まりに従ったからであり、私自身は長音表記は省いていいと思っている(西洋古典叢書、岩波文庫のホメロスがそうであるように; Wikipediaで表記の問…

アラトス、ニカンドロスの邦訳が!

とうとう出ましたね〜。色んな本に引用されていて存在は知っていたのですが、星座神話を扱ったアラトスの著作がようやく他言語さっぱりの日本人にも読めるようになりました。 いろんな動物を扱ったニカンドロスの『テリアカ』なども入っているようです。ニカ…

クリュセイオン・アオル

メドゥーサの切断された首からほとばしる血より生まれでた、ペガソスの兄弟クリュサオル。ヘシオドスの『神統記』によれば、その意味は「クリュセイオン・アオル」すなわち「黄金の剣」であるとされる。 そのクリュサオルと、オケアノスの娘カリロエとの間に…

ラミア<ラマシュトゥ

その後調べてみると、ラミアラマシュトゥ説はヴァルター・ブルケルトにさかのぼるようだ。Walter Burkert. Orientalisierende Epoche in der greichischen Religion und Luteratur. 1984. ヴァルター・ブルケルト『ギリシア宗教・文学におけるオリエント化の…

ラミア、ギリシアの民間伝承

なんか、追記したのがばれてしまったみたいなので。ラミアについて資料が豊富なのは蛇女の伝説―「白蛇伝」を追って東へ西へ (平凡社新書)作者: 南條竹則出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2000/10/01メディア: 新書購入: 2人 クリック: 6回この商品を含むブロ…