2016-01-01から1年間の記事一覧
ラーフの神話は紀元前のインドで広まっていたので、初期漢訳仏典にもその一部が垣間見えることがある。ただ、そのほとんどは神話的蝕観念にとどまっているため、ほかの論文に譲る*1。 唐の時代にもなると、インドの占星術文献を一部にせよ全部にせよ翻訳した…
「竜の頭と尾」の起源を探るため、どうしても避けて通れないのがインド占星術の影響である。この問題が存在するのは、日本語訳のタイトルが『占術大集成』となっているヴァラーハミヒラ(Varāhamihira)の『ブリハット・サンヒター』(Br̥hatsaṃhitā、6世紀…
シリア語やマンダ教、マニ教文献からうかがえるように、紀元後一千年紀の半ばには、西アジアの一部で「蝕を起こす竜」の観念が広まっていた。これを踏まえて、そろそろヨーロッパの「カプト・ドラコニス」「カウダ・ドラコニス」(竜の頭、竜の尾)へと発展…
グノーシス主義の系統をひくイラクの小宗教であるマンダ教文書にも、シリア語のアタリアーに相当する竜が登場する。マンダ教では「マンダ教アラム語」という、シリア語と同じく東方アラム語の一種が典礼言語として用いられている。この言語では、「アタリア…
ふたたび紀元後の世界に戻ろう。紀元前のメソポタミアでは、食を起こす竜についての明確な証拠は見つからなかった。しかし、この言葉自体はのちのち竜に結び付けられるようになる。 前回引用したメソポタミアの占星術書では、食に「アンタルー」という言葉が…
さて、第3回までは紀元後数世紀の観念を見てきたが、少し時代をさかのぼってみよう。ここで出てくるのは神話的食観念のほうである。 食を起こすのが怪物だという伝承は、西アジアだと古代バビロニアにもその一部を確認することができる。古代といってもセレ…
ここから先、混乱がないように、「食を起こす竜」の観念について、以下の三つの区別をしておく。 一つは、文字通り、日食や月食は、天空の竜によって引き起こされるというもので、とりあえずこれを「神話的食観念」とする。 もう一つは、この竜は月の交点と…
第1回の追記。古代メソポタミアに竜が食を起こす神話は見当たらない、と書いたが、それと同じような神話ならば存在する、という話を見つけた。サラ・キューンの『中世西方キリスト教とイスラームにおける竜』(2011)が引用しているもので、それによると、古…
というわけで、今回は第2回目も載せておきます。 紀元前後の時代、ギリシアの占星術師たちは、昇交点にはアナビバゾン、降交点にはカタビバゾンという名称を与えた。その意味は、普通に「上昇」「下降」であった。上下というのは、月が黄道を北向きに行くか…
西洋占星術のホロスコープに現代でも使われる「ドラゴンヘッド」(dragon’s head)と「ドラゴンテイル」(dragon’s tail)という用語がある。それぞれ「竜の頭」と「竜の尾」という意味で、竜の身体の両端のことである。 それではこの竜頭・竜尾とは何かとい…
森瀬繚氏の近著『ファンタジー資料集成 幻獣&武装事典』。著者は日頃からツイッターなどで博覧強記を披露しておられ、特にファンタジー・ホラー関係に造詣の深いところから、幻獣警察(他称を横領)としては読んでみなければと思い、内容の評価はさておき、…