2009年の新刊、2008年年末の新刊など

溝口睦子『アマテラスの誕生 古代王権の源流を探る』
「広く北東ユーラシア世界とのかかわりを見すえながら」が神話学的にツボかもしれない。ここでも出てきた、「王権」というキーワードが……。ちなみに講談社学術文庫から筑紫申真の、まったく同じタイトルの『アマテラスの誕生』というあまり面白くない本が出ている。アマテラスが男になったり第六天魔王と交渉するような中世神話については佐藤弘夫『アマテラスの変貌 中世神仏交渉史の視座』という、こちらは面白い本が出ています。佐藤弘夫の中世宗教関係はどれも面白い。

溝口睦子の名前をどこかで聞いたことがあると思ったら『王権神話の二元構造 タカミムスヒとアマテラス』の人だった。この本は、うーん、日本古代史に通じていないからなんとも言えないのだが、確か何かにひっかかったか、あるいは逆に納得した覚えがある。ずいぶん前に読んだから内容は忘れた……今度の上記岩波新書でわかりやすくなっているのなら、それはありがたいことです。

王権神話の二元構造―タカミムスヒとアマテラス

王権神話の二元構造―タカミムスヒとアマテラス

服部幸雄『宿神論 日本芸能民信仰の研究』この本がむしろ気になる。やたら高いから図書館頼みですが……。やっぱり中世はまだ未開拓分野が多いなぁ。
ちなみに芸能といえば最近『日本庶民文化史料集成 第一巻 神楽・舞楽』を買ったけど、やっぱり素人にはきつい! もう少し神楽・舞楽の入門関係を読んでから再び神楽に現れた神話を考えてみることにしよう(この本を買ったのは竜王ヤマタノオロチ神話があるから)。

岡田明子、小林登志子『シュメル神話の世界 粘土板に刻まれた最古のロマン』
これは、使える。『古代オリエント集』の翻訳ぐらいしか日本語資料がなかったシュメール神話を、私がこれまで英語やドイツ語本を参考にわけもわからず部分的に紹介してきたものを含め、けっこう網羅的に紹介してくれています。なるほど「石膏」は敵ではなくて戦利品と読むべきなのか。でもそのように読んでしまうと、シュメール神話における怪物の種類が減ってしまう。Slain HeroのHeroは「英雄」ではなく「勇士」と訳すか! なるほど! そのほうが肯定的意味合いを減らすことができる。多頭蛇神話については多少異議あり。多頭蛇図像の最新論文って今のところUgarit-Forschungen 38 (2007)に載ったWilliam D. BarkerのSlaying the Hero to Build the Templeですよねぇ……。

シュメル神話の世界―粘土板に刻まれた最古のロマン (中公新書)

シュメル神話の世界―粘土板に刻まれた最古のロマン (中公新書)