古典アルメニア語文献に現れる妖怪

数日前にツイッターでいい加減に書いたもの。ガルニク・アサトリアンの論文*1より。彼によると古典アルメニア語文献では21の妖怪名が知られているという。その一覧が以下。ある程度の説明があるものについては「:」のあとに書いたが、多くは語源的考察だったので、あまり詳細な伝承は書かれていなかった。-k‘は複数形なので日本語表記では省略したが、それがついているやつは、要するに種族をなしているということ。
この論文では近現代の伝承妖怪も多く紹介されているので、近いうちにそちらについても軽い紹介記事を書く予定。

デヴ(devk‘)
カジ(kaǰk‘):アララト山に棲む精霊群。アルタワズド王を捕らえ、幽閉している。
チャル(čark‘):悪霊の総称。
フレシュ(hrēš)
サタナ(satana):サタンのこと。
アザゼル(Azazel)
ベールゼブル(Bēełzebuł)
ヴィシャプ(višap)
ドルジュ(druž):害なすデヴ。
アイス(aysk‘):風の悪魔。
パイ(payk‘):妖怪。
シダル(šidark‘)
チワル(čiwałk‘):怪物、悪霊。
シャハペト(šahapetk‘):農耕地や墓地の精霊。蛇の姿で現れる。
サダイェル(Sadayel):サタンのこと。
ベリアル(Belial, Beliar)
ハンバル(hambaru):ギリシア語セイレネスの訳語に使われている。廃墟に棲むデヴの一種。
パリク(parik)
ユシュカパリク(yuškaparik):ギリシア語オノケンタウロスの訳語に使われている。廃墟に棲む。
ヌハング(nhang):水棲の怪物。
ヘシュマク(hešmak):「ヘシュマクの崇拝者たち」(hešmakapaštk‘)という合成語に見られる。

ギリシア語の訳語」というのは、ギリシア語聖書がアルメニア語訳されたときに使われた単語ということ。

*1:Garnik Asatrian, 2013, "Armenian demonology: a critical overview", Iran and the Caucasus 17(2): 9-25.