フンババとベスとメドゥーサ

前記のとおり色んな資料が手に取れる状態にはないので、ウェブ検索でお茶を濁してタイトルの話題に水をさしてみることにする。

ぐぐっていたらこんなページを見つけた。
http://www.akademiai.com/content/1p10467702610461/
Antik Tanulmanyokという雑誌の2007年、51巻2号に掲載されているJambes arquées. Huwawa és Bész közös inspirációs forrása, az afrikai törpeという論文……の購入ページらしい。どうやらマジャール語(ハンガリー語)のようでタイトルからしてフワワとベスを関連させて何かを論じているのは間違いないようなのだが、いかんせんマジャール語が読めないので何があるかはわからない。

あと、こんなのも。
http://dialnet.unirioja.es/servlet/fichero_articulo?codigo=1046814&orden=63480
La Gorgona Medusaという論文に、普通にベス、フンババと並んでメドゥーサが出ていた。これまたスペイン語なので読めないけど、いくつかウェブ上にある西英機械翻訳はヒスパニックの需要もあって結構精度がよいっぽいので、なんとなくわかる。焦点はメドゥーサとベスの関係ではなく、メドゥーサとゲリュオンの関係らしい。以前Wikipediaゲリュオンの記事を立てたとき、この怪物に関する論考がジョルジュ・デュメジルやヴァルター・ブルケルトのわずかな言及以外にないのを不審に思っていたが、スペイン語圏では当地が舞台なだけあってそこそこ独自の研究が行われているらしい。あなどれん、スペイン。

また、google book検索などを使ってみるとThe Legacy of Mesopotamia(1999)という論集のStephanie Dalley and A. T. Reyes, ‛Mesopotamian Contact and Influence in the Greek World'に以下の記述があるのを見つける。メソポタミアの魔術信仰に使われた名称がギリシアにも伝わっている、という記述のあとに

純粋に図像的な伝達も検証されている。『ギルガメシュ叙事詩』の巨人フンババはティリュンスとスパルタ、またレヴァント、キプロス、エジプトにみられる仮面の一群と関連するとされている。メソポタミアの慣わしに従うならば、仮面はおそらく家の外の扉につるされていた*1。皺だらけのしかめっつらはギリシア美術におけるゴルゴンの典型的な表現の発展に関与した。おそらくメソポタミアの悪霊パズズ図像の影響もあっただろう*2シチリアのセリヌース出土のギリシア彫刻は、しばしば、ギルガメシュのようにペルセウスフンババみたいな様相のメドゥーサ(ここでもジェンダーが転換している)を退治しているのを描写している。ギリシアの仮面がこれまた関連するエジプトのベス像の名は現在ではアッカド語の「小人」を意味する語であると認知されており、おそらくメソポタミアからアマルナ時代に図像が入ってきたのだと思われる*3ポリュペモスのような隻眼怪物もメソポタミアの印章にみられ*4、九頭の生き物もメソポタミア神話と美術から知られ、……

The Legacy of Mesopotamia, p. 101.

※この引用にある注釈は原注。注釈略号の説明をすると、AJ Arch.は学術誌American Journal of Archaeology、RlAは事典Reallexikon der Assyriologie、JHSは学術誌Journal of Hellenic Studies
この引用はAmazon.co.jpの中身検索でもhumbabaとかをキーワードにして探してみれば見ることができます。102ページにはフンババとメドゥーサの比較画像もありました。

The Legacy of Mesopotamia

The Legacy of Mesopotamia

*1:C. Faraone, Talismans and Trojan Horses: Guardian Studies in Ancient Greek Myth and ritual (Oxford, 1992).

*2:J. B. Carte, ‛The Masks of Ortheia', AJ Arch. 91 (1987), 355-83.

*3:F. A. M. Wiggermann, ‛Mischwesen B', RlA viii, 254.

*4:M. Knox, ‛Polyphemos and his Near Eastern Relations', JHS 99 (1979), 164-5.