イスラームにおけるギリシア神話

前々から知りたかったことです。いったいアラビアに残されたヘレニズムの遺産はどうなったんだ???
でも……こういうタイトルをつけておいてなんですが、ジョン・ウォルブリッジによると、イスラーム化後のアラブ世界では全然ギリシア神話は知られていなかったそうです。アリストテレスプラトンといった哲学者やガレノスやプトレマイオスなどの科学者あたりはがんがん翻訳しているのにどうしてでしょう? とにかくホメロスやヘシオドス、ギリシア悲劇などは全然アラビア語に翻訳されなかったらしい。アル・ビールーニーがアラトスの『パイノメナ』(星座神話を記載)を参照しているくらいです。これにしてもアラビア語訳のアラトスが現存しているわけではないそうです*1
キリスト教の場合は『使徒言行録』にアルテミス神殿の話が出てきたりアウグスティヌスが『神の国』で「あんなのダエモンがみんなを騙してるんだ」と言うくらいギリシア神話が新鮮なものだったのですが、ムハンマドが生まれたころにはギリシア神話が滅亡してもうずいぶん経っていたらしい。そういうのも神話がおろそかにされた理由にあるとかないとか……。
星座神話といえば、オリオン座の星の名前の多くはアラビア語起源で、しかもオリオンが巨人だという伝説に影響されて「巨人の何々」という意味のものが多い(http://www4.airnet.ne.jp/mira/seishu/name/a/ori.html)。となると星座神話は脱神話化されて物語としては知られていたということなのでしょうか。

*1:John Walbridge, 1998, Explaining Away the Greek God inn Islam, Journal of the History of Ideas 59.3:389-403.