竜の頭と尾を追跡する4 いろんな観念の区別
ここから先、混乱がないように、「食を起こす竜」の観念について、以下の三つの区別をしておく。
一つは、文字通り、日食や月食は、天空の竜によって引き起こされるというもので、とりあえずこれを「神話的食観念」とする。
もう一つは、この竜は月の交点と関係するというものである。これが重要なのは、前に説明したとおり、交点は天球上の180度離れた二点にあるので、竜は必然的に天球の半分にわたって広がる巨大な存在ということになるからである(神話的食観念だと、それほど巨大である必要はない)。これを「宇宙論的食観念」とする。
最後に、二つの月の交点を、関係はあるけれども別物だとする観念がある。『ケファライア』においてアナビバゾンが二つあるというのがそれである。これを、「占星術的食観念」とする。こちらの場合、宇宙論的食観念と違ってサイズの下限は神話的食観念と同じく「日月と同じ大きさ」となる。ただ、交点という概念が前提となっているのが異なる。この観念は、インド占星術と、そこから派生した密教占星術――九曜――として現在の東アジアでも確認することができる。九とは、伝統的な五惑星に太陽と月を加えた「七」に、月の交点(ラーフ)と彗星(ケートゥ)を足したものである。
ちなみに、竜とは関係がなくなるが、食は天体の影によるものだという観念は、「天文学的食観念」と呼ぶことにしよう。それともう一つ、「食を起こす竜」からは離れるが、また別の観念も混同されやすいので書いておく。それは「天空に存在する竜」(ドラコ・カエレスティス)全般である。宇宙全体を竜がウロボロス状に取り巻いているとか、星々は天上の竜から吊り下がっているとか、天球を回すのは竜だとか、そういったものである。これは「宇宙論的食観念」と重なる部分が多いので、専門的な研究の中でも同一視されることが多いし(フランツ・キュモンとかサラ・キューンとか)、実際に資料上でも近接しているものはあるが、一応、区別すべきだと思う。