妖怪を世界で語る

それともう一つ。『世界の妖怪大百科』には、大地域ごとに簡単な解説がつけられている。アフリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニアなどなど。分量は少ないが、けっこう的を得ているのも多く、面白い。オセアニアについては祖先崇拝や通過儀礼、冥界との関連を指摘し、南アメリカの妖怪は先住民とヨーロッパ人、アフリカ人の混淆によるとする。北アメリカの世界ではグレートスピリット配下の精霊がおり、色んな妖怪もいるけど「べつによその地方……とそれほどかけはなれているわけでは」ないと言う。アフリカ部分の半分はエジプトの紹介になっているけど、後半はシュミット神父の原始一神教説を思わせる出だしから始まり、精霊と死霊の関係へと行き着く。
孫引きだのなんだの言ってはいけない。いまどきこんなにちゃんと「世界妖怪」と地域全体の特徴についてまともに書いた本があるか、というわけである。
宗教や神話をベースに世界を網羅したものは多いが*1妖怪をベースにするのはたぶん相当難しい。どうしても難しいから、地域別ではなく特徴別になるか五十音順になるしかない。東ゆみこ編『世界の「神獣・モンスター」がよくわかる本』はその点評価できるが、妖怪ではなくモンスターにしてしまったのが残念なところ。
もちろん妖怪というくくりが世界的に一般的でもなければ明確な定義があるわけでもなく、だから妖怪中心の本が少ないというのは事実としてあるだろう。でもそこをするりとすり抜けてしまう水木しげるの視点こそ、なんか飽和状態・泡沫状態になりつつある世界妖怪(モンスター)業界(あるのかどうか知らないけど)に与える何かになりそうな気がするのである。

……だから私(toroia)が書いてみるとかそういうことを言うつもりはないので、念のため。やるならば、しかたないけど宗教や神話も統合した、総合的な文化・精神史叙述にならざるを得ない気がする。あるいは「比較」というかたちで酔う快適存在だけを抜き出すという方法もあり。ただ、それではインディヴィジュアルがおろそかにされてしまう。

今は前者を検討中。細かく分断された私のウェブサイトを貫くひとつの「流れ」は自分でも欲しいと前々から思っているから*2

*1:イヴ・ボンヌフォワ編『世界神話大事典』、ミルチャ・エリアーデ世界宗教史』全8巻など

*2:むしろ、自分で文化的流れを整理したいという欲求があるのかも。自分のために書いたものが結果的に他人が私のウェブサイトを理解する一助になれればそれに越したことはない