『アリマスペイア』についての記事

ずっと前に、グリフィン(グリュプス)がリーパイオスRhipaios山脈に棲んでいるということを高津春繁が書いていることを知り出典を探したものの、わからないままだった。いや高津の出典は『ギリシアローマ神話辞典』の116ページなんだけどw、リーパイオスに棲んでいるということが書かれている古典文献を知りたかったわけです。なにせこの辞典には出典が記載されていないから。
ただし高津が古典だけにこだわっているわけではないのが面倒なところで、たとえば最近2ちゃんねるギリシア神話スレッドで少し話題になった(『辞典』に載っている)「クロノスの卵から生れたテュポン」神話は実はイリアス写本のスコリア(欄外古注)が元ネタだということがわかったように、古典に加えてスコリアや中世の辞書やアンソロジーなども資料にしているのです。そもそも英語やフランス語などへの翻訳がないことも多いレベルなので、(古典時代に限らない)ギリシア語が読めて、さらに膨大な量のスコリア集やビザンチンの辞書を読みこなさなければならない。要するに本当の意味での専門家レベルでないと出典がわからないことがあるわけです。
これは普通の日本人の手に負えるものではない。
とはいえ人は低きに流れるもので、今日も今日とて私は英単語を中心にネット検索しておりました。
すると、興味深いものが。
JSTOR(学術雑誌を電子テキスト化してGoogle全文検索できる……が、無料で読めるのは冒頭の1ページだけ)の、『古典四季報』第6巻1/2号(1956年1-4月号)に載っているというC・M・ボウラ著「アリマスペイアの断片」*1(以上、あえて日本語訳してみたけどThe Classical Quarterlyを『古典四季報』というのはヘンだな)。
アリマスペイアといえば、ヘロドトスがグリフィンのことを書く資料に使ったアリステアスの叙事詩! 断片も残っていないと思い込んでいたら、いくつか残っていたらしい。アリマスペイアというタイトルからして隻眼民族アリマスポイのことが書かれているのは必然的だろうから、また幻想動物についての資料が増えそうと思いつつ読んでみると、なんだかリーパイオスとかいう文字列が。

Though the historians treat the Rhipaean mountains simply as a geographical feature, poets, such as Sophocles (O.C. 1248), see them more romantically as the home of night, and a dependence on Aristeas may explain the mythical attributes which Aristotle noted in accounts of them (Meteor. 1.13).

歴史家はリーパイオス山脈を単なる地名だと思っていたが、詩人たち(たとえばソポクレスの『コロノスのオイディプス』1248行)は「夜の家」であるとみたし、アリストテレスが云々
とか書いてある。これ以上は次ページということで読めなかったけど(またこの10ページのためにお金を使わなければならないのだな……)、もしかしたら積年(といっても3年くらいか)の謎が解けるかもしれない。ついでに、ツェツェスがアリマスペイアについて書いているらしいということもあったので、アリマスポイ人についての新たなる原典が入手できるかもしれない。

*1:C. M. Bowra. 1956. A Fragment of the Arimaspea. The Classical Quarterly, n.s. 6(1, 2): 1-10.