ラミア、ギリシアの民間伝承

なんか、追記したのがばれてしまったみたいなので。

ラミアについて資料が豊富なのは

蛇女の伝説―「白蛇伝」を追って東へ西へ (平凡社新書)

蛇女の伝説―「白蛇伝」を追って東へ西へ (平凡社新書)

。英文学者の書いたものだけど、けっこう面白い。原典は英訳からの重訳だけど、スコリアにまで言及するなど徹底しているところがGood。

ラミアのもとが地母神だというのは相当胡散臭い。

語源説にはいくつかあって、M. Hutterは"The Greek name Lamia might ultimately derive from Akkadian Lamashtu."と言っている*1アッカド語のラマシュトゥに由来するのだろう、ということ。これはヒエロニムスが「リリスとはラミアのことである」と言っていることにインスパイアされたものだが、もっと詳細な比較をしているのがDavid R. Westで*2、同様の結論に達している。shtuの部分はshの音がギリシア語にないから省略され、母音がLama-からLami-に変化し女性名詞接尾辞をつけてLamiaとなった、という。

ギリシア神話を扱うならともかくギリシアのキャラを扱う場合、対象を古代にのみ限定してしまうのは、いかにも(ルネサンス以降、古代ギリシアを自らの出発点と位置づけた)ヨーロッパ的な視点で面白くない。ドイツ人やイギリス人が何を思おうがラミアの伝承は現代もギリシアの地に息づいている。
日本で中世以降のギリシア民間伝承を扱った本は少ないが、たとえば

癒しの民間信仰―ギリシアの古代と現代

癒しの民間信仰―ギリシアの古代と現代

がある。民話集もいくつか出ている。たとえば
バルカンの民話 (東ヨーロッパの民話)

バルカンの民話 (東ヨーロッパの民話)

。吸血鬼に限るならモンタギュー・サマーズやそれを翻案した
吸血妖魅考 (ちくま学芸文庫)

吸血妖魅考 (ちくま学芸文庫)

なんかにちょこちょこと書かれてもいる。
ギリシア語資料ならいくらでもあるのだろうけど、私は知らない。1世紀ほど前の
Modern Greek Folklore and Ancient Greek Religion: A Study in Survivals, 1909

Modern Greek Folklore and Ancient Greek Religion: A Study in Survivals, 1909

がよく書けているらしいが、私はAmazon.co.jpの「なか見検索」で参考にするのみだ。

でもここに近代ギリシアに伝わる「ラミア」の面白い伝承があるのが見つかった。175ページの頭のほう
But if her victim kept his wits about him and snatched her head-dress from her, she would, in order to get it back, promise him both life and wealth, and keep her word.
(ラミアに襲われた人が)意思を保ち、彼女の頭飾りを奪い取ったら、彼女はそれを取り戻すために、その人に長寿?と富を与えることを約束するのである。

これって産女&南米の水の精霊の説話にそっくりだ。ラミアの定義がまず第一に「出産のときを狙う妖怪」だろうという私の推測を踏まえると、これまた偶然とは思えない一致。やっぱり何かあるのだろうか。

*1:DDD2, s.v. LILITH, p. 521

*2:Gello and Lamia, Two Hellenic Daemons of Semitic Origin, Ugarit Forschungen 23 (1991): 361-68