古代中東神魔図像事典

Iconography of Deities and Demons in the Ancient Near East. Electronic Pre-Publications.
意訳すると『古代中東神魔図像事典』の一部が(まだ未公刊なので「暫定」なのですが)公開されてました。これは面白い。
どういうわけかアナーヒターやミスラなどイラン系の神々の記事にやる気が見えないのはいいとして(まあEncyclopedia Iranica『イラン百科事典』があるしね)、パズズだとかアプカルルだとか「太陽の女神」だとか、個人的に興味深い項目が多いです。なかには2007年に更新されたものもあり、現時点でのその神格あるいは怪物についての最新の論考がタダで読めるというのは素敵ですね。古代西アジアの神話に興味のある人、要チェックです。

紹介ページにもあるように、この事典はDictionary of Deities and Demons in the Bible(DDD)『聖書のなかの神々・悪魔事典』がテクストに偏っている、それに「聖書内」にだけ限定するのはもったいない、また図像が全然ないからそれを中心にして補完する事典を作ってしまおう、という動機によるもの。だから当然図像のpdfファイルもありますが、見事「印刷禁止」。ハハハ……。
DDDはすでに出版されてもう10年以上経ちますけど、古代西アジアの(聖書に少しでも関連語彙が出てくるような)神格や精霊についての基本文献です。少々値段が張りますけど(それでも1万円)、聖書に関連する古代西アジアの神話に興味のある人は絶対手元においておくべきです(とか言っちゃっていいのだろうか。Amazon.co.jpで中身検索ができるので、実際に確認してみてください)。


それにしてもここ数年でpdf形式の紀要論文とか無料で読めるところがすごく増えてきましたね。手に取りにくい学術雑誌とか、取れてもコピー代が高かったりして「高嶺の花」に近かったものがこうやってオンラインで取り寄せられるようになりつつあるのはとてもありがたいです。大学のはリポジトリとか言うんですか?、横断検索が筑波大学付属図書館のページでできますけど、「神話」とだけ入力すると776件もでてきて逆に困ってしまったりするほど(まだこの横断検索は試用らしいのでかなり使い勝手は悪いです。CiNiiのほうが使いやすい。これは「本文あり」にチェックを入れるとpdfファイルがある論文のみヒットする)。

とはいうものの、僕の見る限り学術雑誌に載っていても査読がなかったり同人誌的なものだったりで必ずしも質が高いものばかりといえないのも事実です。あるいは質が高くても、何十年か前のものはできるだけ現在の当該分野の研究状況に目を通してから読むべきなのでしょう。そのあたりのリテラシーがうまく働けばこれほど使えるものはないでしょうね(自戒をこめて……)。