マストアイテム追加。

はてなブックマークのほうに登録しておいたのですが、George Eberhartという人のMysterious Creaturesという本のpdfファイルがネット上にあがっていました。たぶん違法だと思います。
この本は未確認動物百科事典で、出版当時(2002年ごろ)2ちゃんねるの未確認動物スレで少し話題になっていたのを覚えています。しかし、たしか2万円以上する高価なものだったので、私は手を出せませんでした。今ではAmazon.comのほうでもout of stockになっているようです。その後Michael Newtonという人がEncyclopedia of Cryptozoologyというのを2005年に出版して、もしかしたら以前ブログにそのあたりのことを書いたことがあるかもしれませんが、私はこちらを入手。自分のウェブサイトにも使わせてもらっています。

Mysterious Creatures: A Guide to Cryptozoology

Mysterious Creatures: A Guide to Cryptozoology

Mysterious Creatures: Intriguing Torah Enigmas of Natural And Unnatural History

Mysterious Creatures: Intriguing Torah Enigmas of Natural And Unnatural History

それで。Mysterious Creaturesというのを見てみたところ。

これはマストだ。マストアイテム。

断言します。
日本妖怪についてなら『日本妖怪大事典』(または『妖怪事典』)、古典神話についてなら『ギリシアローマ神話辞典』、ユダヤキリスト教の悪魔や怪物についてはDictionary of Deities and Demons in the Bibleのように(あえてキャロル・ローズは挙げません)、ある分野について絶対に手元においておくべき辞典類というのはいくつか存在しているものですが、Mysterious Creaturesは未確認動物のみならず、伝承の中の怪物全般という分野に興味のある人なら絶対に読んでおくべきです。
まず、Newtonの事典と比較して、項目の書き方が細分されている。地域、目撃情報、語源、資料など。そして資料のほうは本当に博捜していて、もしかしたら孫引きなのかもしれませんが、フランス語、ラテン語トルコ語、ロシア語、スペイン語資料などまでページ数つきで掲載されている。NewtonもがんばってはいますがEberhartには及ばない。
項目選定も面白くて、未確認動物と思われるもの以外、たとえばケトスやステュムパリデスの鳥、キマイラのようなギリシア神話の怪物も載っているし、アーヴァンクやウリシュクなど妖精の類もある。カマソッツとかシペ・トテックとかまで載ってたりして。汗血馬もあったりする。資料を尊重しているのは、たとえばケトスの項目にアリストパネスからアイリアノスまでの原典から(節数まで明記)、Katharine ShepardのThe Fish-Tailed monster in Greek and Etruscan ArtやJohn BoardmanのVery Like a Whale; Classical Sea Monstersのようなケトスについての重要な学術業績、Adrienne MayorのThe First Fossil Huntersのような未確認動物学の有名な本に至るまでちゃんと網羅しているというところからもわかる。信じられない(ただケトスについてはLexicon Iconographicum Mythologiae Classicaeに掲載されている項目も参照すべきだった)。

未確認動物系の事典が普通の伝承系怪物事典と異なって有利な点は、欧米偏重ではないところにあります。アフリカやオセアニアアメリカ先住民、シベリアなどの伝承を平等に扱えている。だからこの種の事典は、伝承系に慣れている人にとってはページをめくるたびに興奮せざるをえないのです。
ただしそのような平等な扱いが可能なのは、コンテクストを捨象しているからだということも忘れてはいけません。ここは非常に重要なところで、未確認動物研究というのはまずもって動物学ですから、当地の文化や社会を軽視してしまうきらいがある。たとえばその未確認動物の神話的重要性、儀礼における象徴性、あるいは動物の命名法や分類といった民族動物学などを見ないでおくことは、その動物の伝承を理解するにあたって非常に危険なことなのです。これは要するに自然科学や科学的手法などというものが社会や文化を分析するときに指摘される危険性と、基本的には同じことなのですけどね。