ターグレルケト

 ターグレルケト(ta・gʟerqät)の姿は見えない。人間の姿をしていて人間と同じ道具を使うといわれているが、その姿は死ぬまで見えないのだ。
 昔々、ターグレルケトたちは何人かのイヌイトと同じ村に暮らしていた。人々は雪の中の跡や雪の家を見ることはできたけど、ターグレルケトたちを見ることはなかった。
 イヌイトの女性と不可視の住人が結婚したとき、それは起こった。
 夫婦は話すことはできたし、彼は妻のために狩りもした。彼はよい夫だったが、彼女はその姿を見ることができず不満であった。そんなこんなで彼女は自分を抑えることができず、ある日ついに、一緒に家の中に座っているとき、絶対にそこに座っているに違いないところにナイフを振りかざしたのである。彼女の願いはかなった。そこには美しく、若い男性が倒れており、そして動かず、そして死んでいた。すばらしい夫をなくして後悔しても全てはもう遅かった。

クヌート・ラスムッセン『ネツィリクのエスキモーたち 社会生活と精神文化』より。

教訓なのか? 悲劇なのか? 笑い話? 復讐劇の始まり(この話とつながっているかどうかわからないけどターグレルケトはイヌイトを殺すらしい)?

この話だけ取り出すとなんとなくヨーロッパの妖精物語に似てるけどじゃあイヌイトじゃいったいどういう文脈の中にあったんだろ。よくわかんね