未確認動物としてのスコロペンドラ

 ヴェトナムのトンキン海岸のハイフォン付近にあるアロン湾は19世紀末から怪物の目撃情報が多く寄せられていました。

 1897年7月、砲艦アヴァランシュ号が、体長20メートルほどもある2頭の謎の生物に向けて砲撃。
 1898年2月15日、同じくアヴァランシュ号が数頭の怪物と出会い、砲撃。鯨とは違った潮吹きをしていた。
 同月25日、またまた怪物2頭を発見。頭はアザラシに似ていて、背中はのこぎりの歯のようなもので覆われていた。
 今世紀の後半にもなると目撃証言はほとんどなくなっている。
 安南のトラン・ヴァン・コンは1883年に、19メートルほどの動物の死体をアロン湾の岸辺で発見した。すでに頭はなくなっていたが、ほぼ似通ったいくつかの体節で形作られており、それぞれ長さ80センチほどの一対の突起があった。硬い外皮で覆われ、棒でたたくと鉄板を叩いたときのような音がした。背はこげ茶色、腹は淡い黄色。現地では「ムカデ」と呼ばれていた。

 んでユーヴェルマンはこの「ムカデ」をロンドレ(その実はアイリアノスのスコラペンドラ)と結び付けています。ああ、なんとなくそういう感じはします。そしてこれに加えバルロワはマダガスカルのトンポンドラノという海の怪物の事例を付け加えていますが、それは体長が20〜25メートルもあり、ワニの鱗のような硬い鱗に覆われ、尾はエビのようであるとのこと。尾の描写はスコラペンドラを思わせるものです。
 しかしユーヴェルマンやバルロワは何故かこれらから「昔鯨類の仲間の原始的なクジラということになるだろう」と結論付けています(以上、ジャンジャックバルロワ『幻の動物たち』より。この本は未確認動物の本です)。ユーヴェルマンはさらにこれらについてとりあえずケティオスコロペンドラ・アエリアニCetioscolopendra aeliani「アイリアノスのクジラムカデ」と命名し、バシロサウルスから収束進化した結果鱗のように硬い表皮をもつクジラが生まれたのではないかと推測しているようです。

 東南アジアの海ムカデについて熊楠がちゃんと言及しているのはさすがとしか言いようがありません。