ユダヤ人の世界観

 ユダヤ教の民間伝承や神秘主義では、天が7つの層に分かれていることはよく知られています。同様に、大地も7つの層に分かれているらしいです。それぞれの大地は深淵、トフ、ボフ、海、水の5つの層によって隔てられています。

 ユダヤ教の民間伝承や神秘主義では、天が7つの層に分かれていることはよく知られています。同様に、大地も7つの層に分かれているらしいです。それぞれの大地は深淵、トフ、ボフ、海、水の5つの層によって隔てられています。
 最下層にあるのはエレツErezで、深淵、トフ、ボフ、海、水によって第6層のアダマーと隔てられています。アダマーは神の比類なき壮麗なものだそうです。その上にあるのがアルカで、そこはいわゆる地獄です。まずゲヘナがあり、シャアレ・マヴェト、シャアレ・ザルマヴェト、ベエル・シャハト、ティト・ハ・ヤヴェン、そしてアバドン(ユダヤ教では、アバドンは冥界の一種です)とシェオールがあるとされてます。破壊天使が悪い奴の霊魂をここで見張っているらしい。次にあるのはハラバー「乾燥」ですが、名前とは裏腹に泉と流れの地となっています。第3層のヤッバシャー「本土」には川や湧水があります。そして我々の大地の真下にある第2層はテベルと呼ばれ、そこには365種の生物がいます。とはいっても我々の大地とは異なる生物が棲んでおり、ここからが本ブログ「幻想動物」のほうにやや関連してくるのですが、たとえばあるものは人間の頭にライオンの身体。あるものは蛇の身体、牛の身体。逆に人間の身体に動物の頭がついていることもあります。さらに、テベルには双頭にして4腕4脚、胴体以外すべての部分がだぶっているタコのような人間が住んでいます。たまにお互いに1人(?)喧嘩することもあるようです。
 我々の最後の大地はヘレドと呼ばれます。さらに神さまは、ついでに196000の世界を栄光によって創造されました。

 天ー大地ー地下の垂直三層構造は西アジアに普遍的な世界観で、シュメールにも既にその考えは見られます。また、同様の世界が無数に存在する、ということも、例えばイスラム教では『千夜一夜物語』の「くちなわの女王」で語られており、ついでに「多世界」的な思想としては古代ギリシアにも見られたそうです。この世界の地球や人類だけが神の創造物ではなく、ほかの世界や地球のような天体にも同じような人類が創造されたのでは?という仮説はミルトンの『失楽園』でサタンが地球に向かうところでもほのめかされていたりします。そして今、天文学や宇宙物理学、生物学の発展、さらにSF文学の展開により、この思想はUFOや宇宙人という名前で非常に一般的になっています。ユダヤ教のもともとの「196000の世界」は単に神の偉大さを表現する為のものに過ぎなかったかもしれないのですが、現代的な視点から見ると、今のUFOや宇宙人の思想とけっこう近いものを感じさせます。
 もう一つ、ユダヤ教のこの民間伝承では、「怪物」たちは第2層のテベルに棲んでいることになっています。もちろん5層の水などによって我々の大地とは隔てられているのですが。ギリシア・ローマ世界(クテシアス以降)、西ヨーロッパ(コロンブス、テヴェなど)や中国(山海経など)、インド(ラーマーヤナ)など、普通は怪物とされる存在はその文化の中心から「水平的に」辺境に棲むことになっているように見えます。それに対してユダヤ教のこの世界観では、怪物は「垂直的に」ある意味辺境と呼べる場所に棲んでいることになっています。というか、我々の大地には存在しないことになってます。この違いがどのような系譜を持つのか、調べてみるのも面白いかもしれません。そういえば、ルネサンス期の絵画では、エデンの園に半人半獣が住んでいる、とされていることがありました。