2つのドラゴンについての新しいページ

一つは4Gamers.netの「剣と魔法の博物館 モンスター編 第68回 ドラゴン」。
後半の「ドラゴンのルーツ」は、このブログを読んでくださっている方々には言うまでもないだろうが、一言で言ってむちゃくちゃである。突っこむ気も失せるほどだし、Wikipedia日本語版でさえすでに指摘されているような「ありがちな勘違い」ばかりなのだ。Wikipediaも見ていないと言うことはこの作者、いったい何を参考にしているのやら。

もう一つは、上と並べるのは失礼かと思われるがgreenbardさんによるファンタジィ事典の「アーヴァンク」。できるかぎり書籍媒体と言っているのに最近オンライン媒体が目立ってるぞ、とかユニコーンが乙女に弱いのはフィシオロゴスからの伝統、とかフガダーンの神話は英語版Wikipediaによれば「捏造」なのでそれを注記しておくべき、とかそういう些細なことは気にしないでおく。
アーヴァンクといえばビーバーの怪物ということになっているのでドラゴンとあまり関係ないように見えるけど、いろんな姿があるんだということを実証し、そしてさらに作者はこう書いている。

《コラム:ドラゴンの原型はどこにあるのか?》
竜のもとになったのは、ギリシアのドラコーンだ*1。ノルマン人*2のワーム伝承も強く影響したことは疑い得ないし、ギリシアのケートスの影響を唱える人もいる。基本的にはドラコーンもワームも「ヘビ」だ。ボク個人としては、ここにアーヴァンク伝承の影響を加えたい。特に「ペレドゥルのアダンク退治」に登場するアダンクは生け贄を要求している点で、ドラゴンのイメージに非常に近い。アーヴァンクは姿形こそ曖昧だが、どうも四足獣のイメージが強いように思う。ドラゴンが無足のヘビから四足動物的な存在になっていった背景には「アーヴァンク」や「水棲馬」などケルト的要素の影響を受けていったためではないだろうか*3

いやいやこんなに丸まる引用してしまうとまるで私の主張であるかのように見えてしまうな。違います。それでも(他称)「ドラゴンマニア」のtoroiaとしては、食いつかざるを得ない。
……と、思ってみたが、いまいち言っていることがわからない。要するにこういうことだろうか。ウェールズには生け贄を要求するモンスター・アダンクがいる。同じく生け贄を要求するドラゴンは、ウェールズに至ってアダンクや水棲馬の影響を受け、四足獣になった。生け贄を要求するだけなら他のモンスターもやっているが、ドラゴンが四足獣であることから考えて、ケルトに伝わる四足獣のアダンクや水棲馬の影響を受けたのだろう。
うむむ。
それはともかくとして金沢百枝(「古代地中海の怪物ケートスの系譜とドラゴンの誕生」)やジャック・ル=ゴフ(『もうひとつの中世のために』)に見られるように、図像としてドラゴンが4つ脚、というか脱-蛇化したのはラテン語圏(フランス、イタリア近辺)であってケルト語圏ではないのだ。もし脚つきドラゴンが9世紀「以前」にケルトからカロリング朝へ広まったと言うのなら話は別だが、残念ながらそういう話は聞いたことがない。また、あちこちに書いていることだが、中世に描かれたドラゴンは基本であり、正確に言うならば「膨らんだ腹」「翼」「尾ひれ」がある。Medieval Bestiaryのページで"serpent"とあるやつらをざっと見てみればわかる。金沢によれば、ドラゴンがこのように「膨らんだ腹」「翼」「尾ひれ」をもつようになった端緒はカロリング朝期にあり、ロマネスク期に至って決定的になったらしい。また、ドラゴンは初期から2脚でも描かれているが、これはケートスの系譜なら簡単に理解できるけど水棲獣の系譜では理解できない(これは「翼」についてもいえる)。
無難にいえるのは、アーヴァンクも生け贄を要求するドラゴンも共通の源から分岐したモンスターだ、ということぐらいだろうか。
ちなみにこの2つのページを同時に紹介したのは多少意図があってのことだったのだけど、そのことは土日にでも書くことにする。「概念」カテゴリになる。

追記:スコットの『妖術の曝露』は近世英語です。

さらに追記:某所で恐竜のウンチクたれたので、greenbardさんのところにも突っこみを。リザードマンのページに「恐竜の中にはドロマエオサウルスやステノニコサウルスなどのように、実際に直立歩行をしていたものもいる」とあるが、恐竜であることの第一条件は直立歩行なのでこの文章はおかしい。

*1:「ドラゴン」という語のもとになったのは、ね(引用者)。

*2:なんでノルマン人だけに限定するのか(引用者)。

*3:この一文は日本語がおかしい。