竜の起源?
幻想動物の代表といえばなんといっても龍、ドラゴン。
登山でたとえるならドラゴンは幻獣界のエヴェレストです。
だから、それほどまでに、ドラゴンと龍について書くのは難しい。
・・・わけなんですが、世の中にはドラゴンと龍についての本が氾濫してたりします。
それが資料的なものなら、優れているものは多い。フランシス・ハクスリー『龍とドラゴン』、苑崎透『幻獣ドラゴン』、『アジアの龍蛇』、『世界の龍の話』、池上正治『龍の百科』あたり。また、発展の過程を描いた黒田日出男『龍の棲む日本』なども必読です。
ただ、起源探究となると、少なくとも駄作と電波ばかりになってしまう現状。
最近だと青木良輔『ワニと龍』。仕方ないのだけど、この人、中国の先史時代における「龍」がどのようなものか、まったく知らないようです。たとえば、新石器時代・紅山文化の玉龍(一番下)(高校のときの書道の先生のページ)、龍文化的研究新収穫(三)(中国語か何かのページ。前5000年〜3000年ごろ古い龍の形態は蛇、蛇、豚、魚、ワニ、鹿、蛇・・・であるとする)、そのページの補足的な図。こういうのはよくある「幻獣にはモデルがいた!(それも一種だけ!)」というやつで、幻獣版エウヘメリズムとしてまとめて切り捨ててしまってもいいとは思うのですが、頭を動かさないでも納得できる単純明快な論理ではあるので、一般受けがよくてややこしい。誤解されないように言っておくと、確かに竜の起源の一つにワニがあることは間違いではないでしょう。ただ、文字情報や図像情報、時代や地理などを腑分けして考えないと、まったくトンチンカンな結論に達してしまうことがしばしばあります。気をつけましょう。とくに龍など資料が豊富すぎて適当につまみ食いができてしまいますし。ちなみに西洋のドラゴンのほうの起源への言及もありますが、これは小学生以下。語る価値なし(と言いつつ、今手元にないので詳細は書けません)。
少し前になりますが、荒川紘『龍の起源』もひどかった。この人のほかの本は評価が高いらしいし、この本も学術的体裁をとってハードカバーなので一見まともに見えますが、ダメです。なんといっても、ティアマトをドラゴンとしているところが、このblog的には最優先でゴミ箱に直行させてしまう第一の理由になってしまいます。荒川さんはおかしい。ティアマト=ドラゴン説をぶった切っているハイデルのThe babylonian genesisから図を引用しているのに、それをのうのうと「ティアマトだとも考えられている」などと書く浅ましさ。もしかして、本読んでないのか? それともわざと無視してるのか? どっちにしても学問的な誠実さが足りないです。というか、ティアマトのような原初の女怪物はドラゴンでなければいけないという強迫観念があるみたいです。そして、西洋のドラゴンは、お決まりの図式である「先住民=蛇」と「支配民族=牛」の単純な二項対立の図式で終了。もちろん、インド・ヨーロッパ語族における「三重の怪物たる蛇」と「戦闘神:英雄」の対立についても、あったのかなかったのかどうか(これも手元にないので詳細は覚えてない。もし完全になかったとしたら、この本は学術書としては完全に役に立たない。西洋と東洋の対立という、ある観点からの日本思想の書として読むならいいかもしれない。安田喜憲が好みの人にお勧めw)。東洋の竜についても、新味なし。こんなレベルで、よくもまあ竜についての本を出せるもんですな。・・・一応、言い添えておきますと、河童についての論考(とか)は評価できると思います。
※書いてから3時間くらい経ってアップロードしようと思って、今読んでみた。なんでこんなに3時間前の精神状態はやばかったんだろう? 謎。ところで、私は生まれる前から竜との関係が運命付けられていました。というのも、私の家では子供に「竜」の字をつけるという慣わしが何時のころからかあるらしく、当然私の名前のなかにも「竜」がはいってしまっていて、・・・ってそれだけなんですが。