ギルガメシュの末裔

 ギルガメシュ叙事詩についての本を図書館で借りて読んでみたら、面白いことが書かれていました。楔形文字終焉以降ギルガメシュとその仲間はどうなったか? というものなのですが。

 アイリアノスの著作にギルガモスというバビロニアの王の話が載ってるのは結構有名だと思いますけど、なんと、あの死海文書にもあるらしいです。それもエノク書に。
 エノク書といえば天使やら堕天使やらの伝承や名前の宝庫として知られてる聖書偽典ですが、現代にまで伝わっているエチオピア語版とスラヴ語版の、さらに前のアラム語版写本がクムランの洞窟から見つかってます。それはおおむね現代に伝わってるエノク書と同じなんですが、一部、差し替えられていることがわかりました。それが「巨人たちの書」といわれる部分。これは実はマニ教聖典として採用したためにエノク書から外されたとも言われているいわく付きの文書です。とはいっても内容は洪水前のネピリムたちのお話を思いっきり拡大解釈したものらしく、おどろおどろしかったり呪術的だったりすることはないようです。んで、その悪い巨人たちの名前のなかにギルガメシュがほとんどそのまま登場するとのこと。
 ギルガメーシュ。
 本当にそのままです。ただ、あの時代の死海周辺の常としてもとの文字には母音が記されておらず、正確には子音だけ伝わっています。その子音は
 GLGMYSh または GLGMYS
 ガレギムイシェーとかゴルゴ・ミエソとも読めると思うんですが、とりあえずギルガメーシュらしいです。もはや偉大なる王、崇拝されるべき神としてのギルガメシュはそこにはおらず、なんだかよくわからない、古い時代の神話の中の存在=いけない存在としてしか考えられていなかったようです。
 また、フンババもあるようです。こちらはそのまま怖い怪物として。
 ホーバービーシュ。
 こちらも子音だとHWBBSh、HWBBS。
 フンババから考えるより、シュメール語のフワワから類推したほうがよさそうですね。
 そしてこの文書はマニ教の正典となったわけですが、中央アジアのトゥルファンから発掘された文書にも、ちゃんとフンババと、さらにウトナピシュティムらしき名前も残っているのだそうです。マニ教の中世ペルシア語ではHWB'BYSH、ウトナピシュティムは'TNBYSh。
 さらに時代が下って、15世紀。アル・スユーティーというアラブ人が書いた悪霊に対する呪文のなかにジルジャミシュ(文字通りだとJLJMYSh、JLJMWSh)という悪魔がいるそうです。フンババの名前もそこにあるそうです(文字通りだとHT'HWSh)。実に(だいたい)30世紀以上も、シュメールからアラビアにいたるまで、ギルガメシュの系統は途切れなく連なってるわけです。

 ギルガメシュ叙事詩ファンの方にしてみればギルガメシュや愛するフンババがこんな体たらくになってしまったのは悲しむべきことなのでしょうが、私は何よりもまず妖怪悪魔幻獣ファンですのでこういうクロスカルチュラルな発見は面白かったりします(~_~)