西洋中世綺譚集成

シリーズが予告されていたのに最初の1、2冊しか出ずに終わってしまっているというのがよくある。岩波文庫で半世紀以上続刊が出ていないのもある(私の手元にあるのでいうと、『ドイツ民譚集』1948,國松孝二訳は5巻の予定が第1巻だけ出て、そのまま。微妙にマイナーなセレクションなのでもし5巻まで出ていれば『ドイツ民衆本の世界』を40年先駆けていただろう)。青土社の西洋中世綺譚集成もそのうちのひとつなんだろうな。
私が持っている池上俊一訳の『皇帝の閑暇』は1997年の初版だが最後のページに次のようにある。

叢書*西洋中世綺譚集成
*『皇帝の閑暇』………池上俊一
*『メリュジーヌ物語』………松村剛訳
*『アイルランド地誌』………有光秀行訳
 『聖パトリックの煉獄』………松村剛訳
 『預言者メルラン』………松村剛訳
 『大司祭ヨハネからの手紙』………池上俊一
 『アレクサンドロス大王物語』………松村剛訳
 『宮廷閑話集』(上・下)………吉武憲司訳
*――既刊

なんて魅力的なラインナップ!……でも『聖パトリックの煉獄』以下は、いまだに出版されていない。『アレクサンドロス大王物語』は伝カリステネスのやつだとか、『ブリタニア列王記』の瀬谷幸男が訳している『アレクサンドロス大王の歌』とかいくつかすでに出ているが、他のはいまだ知らず。ウォルター・マップの『宮廷閑話集』はキャサリン・ブリッグズなどが妖精物語の原典にしばしば挙げているのでぜひとも入手して読んでみたかったんだが、今はそれもかなわず、という状態なのか。訳者に予定されていた吉武憲司の「業績」をみても関連のものがあまりない。その他の本に予定されていた訳者、たとえば松村剛は中世ヨーロッパ文化史の分野では日本で知らぬものなしだろうけど、ざっと見る限りフランス語を中心に著作を発表している模様。翻訳もマルク・ブロック、パストゥロー、ジャン=クロード・シュミットなど第一人者を紹介し続けているから期待ぐらいしてみてもいいかもしれない。池上俊一も同じく中世ヨーロッパの幻想に興味がある人なら必読の人(私も数冊著書を持っている)だが、やっぱりそれぞれの事情というのがあるのかもしれない。たとえば青土社側の編集者に都合があったりとか、伸ばし伸ばしになっていつのまにか……とか。
せめて『煉獄』と『閑話集』だけでもどこかの出版社が出してくれないかな〜。このシリーズの美しい装丁と据え置き値段のままで……

皇帝の閑暇 (叢書 西洋中世綺譚集成)

皇帝の閑暇 (叢書 西洋中世綺譚集成)

メリュジーヌ物語―母と開拓者としてのメリュジーヌ (西洋中世綺譚集成)

メリュジーヌ物語―母と開拓者としてのメリュジーヌ (西洋中世綺譚集成)

アイルランド地誌 (叢書・西洋中世綺譚集成)

アイルランド地誌 (叢書・西洋中世綺譚集成)