ヲロチworotiの語源

 日本では、ヲロチの語源は、ヲ+ロ+チに分解するのが普通です。岩波文庫の注によればヲ=峰、ロ=助詞、チ=霊(どっちかというと霊性。ミヅチ、イカヅチなどのチ)。ヲをそのまま「尾」と解釈して尾の霊とするものもあります(イケニヘ譚の発生 ver-1(三浦佑之)。ちなみにこのページでは「八岐大蛇が川の象徴である。ペルセウスアンドロメダ型神話に多頭蛇が出てくるからという説よりはるかに理解しやすい」とありますが、そっちのほうが理解しにくいです。アンドロメダ型神話に多頭蛇が出てくる意味自体を問うのが先でしょう。ローカルな付会は後でいくらでも解釈できるわけで)。
 どちらにしても、もともと蛇ではなく何らかの恐ろしい霊を意味していたという説が有力です。
 ところでアルタイ諸語ということばがあります。おもに北アジアで話されている言語をまとめた分類単位です。そのなかにはたとえば満州語モンゴル語トルコ語など、非常に多くの言語が含まれています。ただし、アルタイ諸語アルタイ語族と言われていたことからもわかるように、その昔はアルタイ語族印欧語族セム語族のように起源的に同じグループではないかと考えられていましたが、今ではそのような説はかなり弱くなってしまっているようです(cf.「そもそもアルタイ語族というものは存在しないと考える言語学者も多い」アルタイ諸語@ja.wikipedia)。
 それでもがんばって語源を推定しようと言う努力はなされていたりします。そもそもアルタイ諸語に属す言語のほとんどがいわゆる先住民言語であり、文字言語ではなく、かつ以前は調査困難だった旧ソ連地域の言語だったわけで、日本にはそれほど多くの専門家がいません。そのなかで日本語の起源に研究の中心をおく人など、ほんの一握りでしょう。この事情によって導き出される問題は2つ。まず、私の、アルタイ諸語についてその起源などがどれだけもっともらしい仮説なのかを判断する力がほぼゼロであること。もう一つは、どうしても資料がロシア語中心、英語中心になってしまうということです。
 だから、私は必ずしもこの仮説を支持するというわけではないし、たんに「面白い」と思ったから以下で紹介してみようと思っているだけです。

 ソース: Altaic etymology
 現代日本語のオロチorochiは中世日本語ではヲロティworoti/di、古代でもヲロティworotiだった。この意味は「巨大な蛇」である。推定される日本祖語は*ベレティ*bərəti(なぜwがbになるかはわからないです。w<v<b?)。そしてこれはアルタイ祖語の*エベレ(*ebVrV。Vは母音。カタカナでは表記できないので暫定的にeにしてみた)にさかのぼる。
 これはテュルク祖語では*エブレン(*ebren)になる。オスマン語でエヴレンevren、中期キプチャク語ではエウレンewren、チュヴァシ語でヴゥレ・シュレンvəwre ślen、ブルガール語でヴェレニvereni、ガガウズ語でイエヴレムievremである。
 満州祖語は*ウーレ*ūreと推定される。エヴェンキ語でウーレūre、ネギダール語でウイェuje、ウルチ語でウェレ(ン)were(n)、ウデゲ語でウェーwē、ウイェujeである。
 テュルク語の形態ebrenは、日本祖語のbərətiがebərətiの短縮形であるということを強く示唆する。tiはおそらく「霊」でいいんだろう。

 うーん・・・どうなんだろう・・・