ギリシア神話の項目の書き方

 Wikipediaゲリュオンの項目を立てた。リンク先の項目名がゲーリュオーンとなっているのは単にWikipediaの決まりに従ったからであり、私自身は長音表記は省いていいと思っている(西洋古典叢書岩波文庫ホメロスがそうであるように; Wikipediaで表記の問題が出てきたとき、この2者がどう考えても故意に無視されていたのはひじょおおおおに疑問である)。
 そのことはさておいて、私たちギリシア神話マニアは高津春繁の『ギリシアローマ神話辞典』にとてもお世話になってきたが(かくいう自分は今年再版されてようやく使うようになったんだけど)、同書最大の欠点が「出典の明記がされていない」ということも十分に承知してきたはずである。ならば新しくギリシア神話について何か書こうとするときは、とくにWikipediaのように今後しばらくは簡易的な標準になりそうな場の場合、出典を明記すべきだろう。もちろん孫引きばかりで原典に当たらずに項目を書いた場合は別だけど。
 だから今回私は初めてギリシア神話の項目を書くに当たって出典を全て明記してみた。残念なことにこのような書き方をしているギリシア神話の項目はほとんど存在しない。対照的に北欧神話の項目は出典がちゃんと記されているのが多いのを考えると意識不足と言わなければならない。
 出典が書かれていない場合何が困るかと言うと、見ている側が「もっと調べたい」あるいは「この記述の真意を探りたい」と思っても簡単には元ネタにたどり着けないところにある。これはWikipediaの方針(出典の明記&独自調査の禁止)でもある。たとえば現代ギリシアの農村で古代神話の名残をフィールドワークで発見してもそれをWikipediaにそのまま書くのは許されないことなのだ。ギリシア神話北欧神話は、こういってさしつかえないならば「死んだ神話」であり、情報源は(美術上の表現を除けば)ほとんどが書籍媒体に収録されている。ギリシア神話のように書誌学の長い長〜い伝統がある分野の場合(そもそも現代の書誌学のベースになっているのは古典文献学だ)、出典を明記するのが専門家の作法であり、専門家でなくても上記の理由により読者に配慮するならば出典を明記すべきなのだ。ギリシア神話はただでさえ原典が多い上に翻訳されていないものもあり、そういうのを調査するのは本当に骨が折れる。
 これは別にギリシア神話に限らない。原典が多い分野は資料も多いが原典が少ない分野は資料も少ない。どちらにしても出典を明記しないと調査するほうは大変疲れるし、時間を食う。書いておけば将来何人もの人々が調査するときに調べなくてすむのに!