ジャカロープ、あるいは博物誌上の動物

最近見ていなかったのですが、x51.orgってコメント欄廃止してたんですね。2chのニュース系板から流れ込んでくる「NONAME」が多くていろいろあったのかもしれませんが。そのx51の最近のニュースにジャッカロープ - "角の生えたウサギ"の死骸を発見 米という記事が。ジャカロープとは鹿の角の生えたウサギのことで、幻獣のはずなのですがアイダホだかワイオミングだかアメリカのどこかの田舎の州獣になっている、何気にポピュラーなくせに幻獣図鑑にはほとんど全く名前の載らない存在です。私がジャカロープを知ったのは荒俣宏バイエルンでヴォルパーティンガーという、こちらも同じく角の生えたウサギの標本剥製をみて驚いたとかいう『怪物の友』(集英社文庫)を読んでからですが、そこにアメリカから来た観光客がヴォルパーティンガーの絵葉書か何かをみて「あれ、これジャカロープじゃない!」と叫びそれに荒俣さんが興味を示したというお話が載っています。「ほんとうに州獣なのかよ?うそくせー」と思いながら読んで何年か経ってネットでふと気になり調べて見ると、なんと海の向こうでは非常に有名な動物だったということがわかり、私もまた驚いたという話があります。そのときヴォルパーティンガーを含めて調べてみて事典の項目に載せようと思ったのですが、意外なほど資料が少なくて、博物学の時代のかなり初期のものと思われるいくつかの「角ウサギ」についての博物学書へのリンクを貼っただけで書き残してます。

 「角のあるウサギ」は、Joris Hoefnagelが既に1575-80年ごろの"Animalia Qvadrvpedia et Reptilia(Terra)"のPlate XLVIIに書いている。その絵はここで見ることができる。
 さらに、コンラート・ゲスナーの『動物誌』(初版1563)にもラテン語名レプス・コルヌトゥス(Lepus Corutus)として角ウサギが掲載されている。これも慶應大学デジタルライブラリで見ることができる。
 実際の「角が生えたウサギ」の写真をいくつか見ると痛々しい病気であることがわかりますが、おそらくバイエルンの猟師たちはもともと「角の生えたような」とだけ言っていたのにそれが自然と博物学書に定着していくうちにイボの形状だけリアルで場所がきれいに頭の上にだけ生えている図に変化していき(ただし病気の一種だということは別のところではちゃんと認識されていたようです)、もう一方では口承として、なかばホラ話として剥製まで作られつつ現代に至っているということなのでしょう。ウサギってネタになりやすいのかどうか知りませんが、『動物シンボル事典』には「ダユ」というからだの片方だけ足が短くて斜面を走りやすいウサギのことが載っています。『事典』の解説を見る限り、これもホラ話系の動物のようです。

 今取り上げてるスコロペンドラや日本のムカデクジラのように、決して伝説上の怪物ではないけれど、かといって妖怪や精霊というわけでもない、非常に隙間的存在である、いうなれば「博物誌上の動物」。以前一角獣の話のところでもアリストテレスのオリュクスがどの幻獣事典にも載っていないことに「?」をつけておいたのですが、資料が少ないです。調べにくいです。この角ウサギは比較的ポピュラーなのですが、スコロペンドラやムカデクジラとなるともうアイリアノスや『大和本草』ぐらいしか資料がない状態。文系学問ではここらへんが限界なのかな・・・。

※x51の最後のほうにある妙にリアルなヴォルパーティンガーの絵、デューラーの『ウサギ』にあれやこれや書き足してるんですよね?! よくああいう画像探してくるなあ