タルムードとアラビア悪魔学?

 マニ教関係の幻獣資料収集も一区切りついたので、次に、DoP掲示板で少し前に話題になったユダヤ教の幻獣・妖怪関係を調べてみることにしました

 地域別参考資料リストにはEncyclopedia Judaica(EJ)やJewish Encyclopedia(JE)を並べているんですが、これまでに存在していたゼレダとかの妖怪(悪霊)は、だいたいがEJの「悪魔と悪魔学」から抜き出したもので、「タルムードにある」といっても実際にタルムードを見たわけではありません。JEのDemonologyのほうも似たようなものですが、こちらは今のところ参考にしていません。そもそも書いた時点で「ペサヒム編」って何?って自問自答しつつ入力していましたから……。
 そのようなわけで、EJからの項目を書き終えた時点でタルムードをあれこれ探してみていたわけなんですが、英語ではBabylonian Talmud Research Guideというのが役に立つようです。ここはResearch guideとあるようにタルムードの内容そのものよりはタルムードをどのようにして調べるかを主眼にしたページであり、方々で使われる各編の略語や全巻の構成、Indexを利用した具体的な調べ方、引用の慣例などが載っています。私が知りたいのは、これはタルムードに限らずですが、書物そのものの解説や情報よりも、むしろタルムードのどこに何が載っているか、ということなので、このようなページはとても実用的です。
 タルムードといえば、一面では「ユダヤの知恵」といわれ、一面では「世界支配をもくろむユダヤ」などという陰謀的な側面でばかり紹介されるのが普通です。でも、私の場合はタルムードのなかにある「伝承」に興味を持ってしまったので、なかなか「タルムード」解説本のなかにも「悪魔学」について書かれたものは見当たりませんでした。
 Research Guideの下のほうのリンクをたどってみるとMordechai Torczyner's WebShas - Index to the Talmud: Main Categoriesというのを発見。Supernatural Issues(超自然的事項)というカテゴリがあったのでそこにいってみると、タルムードのどこにどんな悪魔についての記述があるかを羅列したページにたどりつきました。どうも、このWebShasというページは、タルムードのネット上における大きな索引・クロスリファレンスを目指しているページのようです。かなり詳細にあるので、これだけに依存しても問題はないと思います。ここまでくればあとはタルムード本文なわけですが、「トラック一台分」だとか「陰謀が書かれているので和訳はない」とかいろんなデマが出回っているわりには、県立とか大学レベルの大きな図書館にいくと和訳があったりします(ただ、未完。全55巻で、長窪専三さんという方が訳されているようです)。

 ところでJEのアーティクルの下のほうにはin Arabic LiteratureとかDemons in Islamとかあって、さらにEJのほうにも「アラビア・ユダヤ的な悪魔」という記述が結構見かけられます。中世ユダヤ教の悪魔の一部はアラビア起源だし、ユダヤ教的なキリスト教悪魔学文献、たとえば、「ソロモンの小さな鍵」はユダヤ・キリスト・アラビア悪魔学がごっちゃになったものらしいし、グリモアの悪魔などの起源を探るにもアラビアというのは絶対に落としてはならない文化地域であることが何となく想像できます。そうなるとアラビアやイスラムの妖怪や悪魔学についても調べたくなるのが人情というもの。
 ですが、こちらはどれを手始めにすればいいのかわからない。この前、『「魔」の世界』の元ネタだとしてクトゥルーさんに以前教えてもらった『砂漠の文化』を古本屋で偶然頭を上げたところに発見したので使う予定ではあるのですが、これとてベドウィンの妖怪を紹介しているに過ぎず。クルアーンハディースのみならず、バビロニアやエジプトにヘブライ、さらにはイランのゾロアスター教に連なるアラビア・イスラム悪魔学・妖怪学を体系的に詳細に紹介した本をまだ入手するには至っていません(というか、そういう資料についての情報さえない。そもそも、あるのか?)。アラビアの妖怪ってアラビアン・ナイト以外はかなり大きな穴があると思うんで、アラビア語読める方、イスラム研究者の方、「ジン」や「シャイターン」「グール」「シアラー」レベルにとどまらない資料の発表を期待しております。売れるかどうかは、知りませんが。ええと、目安としてはアラビア文字つき固有名詞100以上なら6000円くらいでもいいんじゃないかな?(笑)