神々の黄昏byワーグナー

スキャナーのサイズぎりぎり(A4)サイズのものを探してみたら、これが見つかったのでなんとなく取り込んでみる。
ワーグナーの『神々の黄昏』より、最後の2ページ。どらが鳴り、シンバルがロールで響き渡るところから、最後の変ニ長調の主和音に至りディミヌエンドするところまで。マーラーの第九番も変ニ長調のppppで終わります。意味深です。

しかし圧巻ですね。ここの変ニ長調に至るカタルシス(左3小節目)を聴くために15時間かかる全曲があるといってもいいくらい。
*オーケストラ的聴き所*
左ページ最初の打楽器(下から5,6段目)、トライアングルは一発だけ、シンバルのロールはffだけ。だとすれば2小節ffで鳴らし続ければいい、わけでもなく、普通はこの2小節で思いっきりテンポを遅くしてヴァイオリンとヴィオラにある八分休符を強調したあと、次小節に進めます。その都合でシンバルもここはディミヌエンド。他のパートも同じですが。どら(Tamtam)は2分音符。こだわってもいいのですが、ここはシンバルのロールがffで鳴っているので、音価通りにミュートするか、鳴りっぱなしにするのかは、聴いているだけではあまり違いはないかもしれません。次小節、コントラバスなどの低音はffからdim.ですが、ヴァイオリンの旋律はpからクレッシェンド。ここの冒頭でティンパニをはっきり響かせつつ、高音部へなめらかに移行するかどうかが聴き所です。この旋律は、最初はヴァイオリン+フルートなのですが、2小節目でフルートはfpでD♭を伸ばしてメロディから手を引き、ヴァイオリン群のみが引き続く構成となっています。トロンボーンテューバがないとはいえ、依然として重厚なオーケストレイションですべてにpiu pが指示されているところですが、次ページへと移るとヴァイオリンの<>の間にのみpoco fがあり、音形的にも音楽的にもオーケストレイション的にもヴァイオリンに重点が置かれた書法です。音量的にはpoco fのE♭で頂点を築くようなスコアになって、続いては同じくヴァイオリンのみpのA♭が保持され、ほかはpからffの最終小節へとクレッシェンドしています。この高音、しかし弱音のA♭をいかに聴かせながら管楽器パートの音量を上げ、A♭の4分音符が管楽器+ティンパニ全音符へと溶解するかもまた聴き所。素直に全部の音量を一緒にしてしまえば楽なんですが、ワーグナーが物語的意味を与えた旋律・和声がこのように扱われているのを考えてみて、より深い思想に触れるのもまた面白い、かもしれません。

ちなみに、この直前の、さまざまな旋律や和音動機が重層的に重なり合い、楽劇の終末を「音楽として」しめくくるところは、ワーグナーの作曲技法のなかでも特に頂点を極めたといわれる箇所です。
「神々の黄昏」p.614「神々の黄昏」p.615