以前このブログでこき下ろした資料→結局使うはめに

 古代ペルシアへの道で伊藤義教さんを引用してバッサリ否定した、古い中世ペルシア語(今では中期ペルシア語というらしい)の翻訳資料。でも、やっぱ、それしかないんだからしかたがない……。

 具体的にはSacred Books of the Eastという叢書で、あのマックス・ミュラーが編集主幹という、時代を感じさせるバベル的なシリーズです。年代は1879-1910年とかあるから、非常に古いです。しかもまだ売ってます。より新しい仏訳独訳などはあるんでしょうけど、入手しにくいし読めません。
 というわけで、今回からはこのうちPahlavi Textsというのを使おうと思います。パート1(ブンダヒシュン、ザード・スパラム選集、バフマン・ヤシュトなど)パート2(ダージスターン・イ・ディーニークとマーヌーシュチーハルの書簡)は入手できるかもしれないらしい。なお、Amazonの言う「通常3〜5週間以内に発送します。」は経験上「もしかしたら数ヶ月で送れるかもしれない」という意味になります。

 さて、内容の誤訳やいい加減さは専門家ではない自分ではいかんともしがたいので放置するとして、以前は「名前事典」と名乗っていた「幻想動物の事典」としては、名前とつづりと発音にこだわりたいと思います。
 Sacred books of the eastは著作権が切れているので、上のリンク以外にもたとえばAvesta.orgでいくつかみることができます。でも、見ればわかるように、固有名詞はおおむね普通のローマ字になってしまっていて、原書でイタリック体や^をつけて音を区別していることがわからなくなっています。確かに検索やページ作成などのためにはそっちのほうが楽だし、教義やストーリーに比べれば名前の発音なんて二の次三の次ではあるのですけど。
 また、原書の最後のほうには、アヴェスタ文字&パフラヴィ文字をどのラテン文字に転写したかが書かれてます。

 もう一つ資料を用意。お化け辞典世界言語大辞典。これはどこの図書館にも置いてます。「アヴェスタ語」「中期ペルシア語」「アヴェスタ文字」「パフラヴィ文字」の項目をコピー。
 これは前世紀末の事典ですから、Sacred booksとは実に1世紀の隔たりがあります。で、その間に印刷技術も発展して、むずかしいラテン文字も簡単に印刷できるようになりました。んで、どっちの資料にも、良心的にアヴェスタ文字&パフラヴィ文字のどれをどのラテン文字に転写したか書かれてるんで、かなりの程度、Sacred booksにある転写されたラテン文字の単語と現代の転写法を比べて現代の転写法によるラテン文字の単語に再建することができます。もちろん、いくつかの文字は対応しているのがなかったりするのでより専門的な文献を調べる必要はありますが。
 それでも、こうやって現代的に複雑な表記を妥協せずにしておけば、以下のような誤読はずいぶんと減るはずです。(理想的にはアヴェスタ文字、パフラヴィ文字で表記、なんでしょうが)


 見栄をはることは大事
 たとえば、アヴェスターの英雄クルサースパは現代の転写法だとKǝrǝsāspaになるのですが、ǝもāもASCIIにはないのでKeresaspaになります。それを、このような事情を知らずに読むとケレサスパっていうカタカナ表記にしちゃうんですねぇ。日本語でペルシア神話の本を読んでいれば「e」がときにはカタカナには反映されないってことはわかるだろうし、Keresaspaもクルサースパだということはわかるはずなんですが、これってかっこ悪いですよね。似たようなのだと、Amǝša Spǝntaをアメサ・スペンタ(Amesa spenta)とか、アメシャ・スペンタ(Amesha spenta)とか。挙句、英語の複数形sを原語のものと勘違いしてアメサ・スペンタス(Amesa spentas)とか。せっかく英語の資料を使って「こんなに調べてるんだ」と思っているのなら、なおさら。
 こういう「かっこ悪さ」をできるだけ減らしたいと、誰しも思うのではないでしょうか?
 できるだけのことはしたほうがいいと思います。
 できなければ、せめて、「できる可能性はある」「やる気はある」ってことをこのブログみたいに書いたほうがいいのではないのかな、と。一応、名指しではないですが。



 あとで「このブログでこき下ろした表記→本当は正しかった」とかなったらどうしよう