『空想動物・神々の世界展』@古代オリエント博物館に行ってきました

 池袋からサンシャインシティへの通路のいたるところにポスターが貼られていたのにも関わらず、文化会館7階奥にある古代オリエント博物館は下界の喧騒をまったく関せず、といった趣で、静かな鑑賞環境を提供してくれました。
 ……つまり私以外誰も見ていなかったということで、これは前述のように嬉しい反面、ややむなしい感情も沸き起こってきます。それでも、中に入ってしばらくすると係員と同じ数だけの観客がいたのを発見したのですけど。
 ここは博物館といっても百貨店の最上階にあるような小さなもので、何とか国立美術館のような立派な西洋風建築で駅前にドンと構えているような大仰なものではありません。ビルの7階だという立地条件もあってか、展示物も、せいぜい2人で運べる程度くらいのものしか置かれてません。しかも今回の展示では大半が片手で持てるくらい小さな展示物ばかりで、「!!大英博物館展!!」のように見上げて驚くたぐいの展覧会というよりは、目を凝らしてディティールを確認するような特別展示が多かったです。

 それでも、池袋に気軽に行けるところに住んでる人で「幻想動物」にこだわりを持っている人や興味を持ってる人なら、やはり行くべきかと思います。

 展示は6つに分かれています。それぞれエジプト、地中海世界(ギリシア・ローマ)、西アジア、南アジア、東南アジア、東アジア。まずはエジプトで等身大?のスフィンクスがお出迎え。でもよく見てみると「複製」と書いてある。おもな展示物は高さ5センチにも満たない、カタログ(\1100)を後で買ってようやく何がどうなっているのかわかるくらい小さな彫像など。
 そもそもこういうのは「幻想動物」なので、普段のモノを見る目で彫像の細部を認識してはいけません。これはおかしいな、と思ったらそれは実際におかしいのです。何か耳がでかいな、と思ったらそれはでかいのです。頭が多いな、と思ったらそれは本当に多頭なんです。ヨダレを垂らしているな、と思わないでください。それは舌です。
 西アジアの円筒印章も、これまた小さい。高さ2cmぐらいのばかり。このあたり、もう少し展示工夫の余地があるかと。印章に描かれた動物たちは、その多くが神話はおろか、名前さえ定かでない幻獣たちです。

 個人的に興味深かったのは「南アジア」。南アジアといってもガンダーラあたりまで含まれるわけで、ガンダーラといえば勘のいい人は分かると思いますが、北西インド地域におけるギリシア美術の展開が展示の主流として紹介されていました。例えばアトラスやトリトンケンタウロスなどがギリシア彫刻そのままにインドで出土していたりするのを知ると意外な方面への文化の広がりを知って少し感動してしまいます。ついでに「ケートス」を数個展示していたのもいいですね。ケートスとは今では「大魚」「クジラ」と訳される海の怪物で、ギリシア神話にも結構登場するのですが、一般的な本では滅多にケートスというギリシア語で紹介されてきたことはなかったんじゃないでしょうか? カタログではマカラとの類似も指摘されていますが、ケートスといってもかなり抽象的な「海の怪物」なので、さまざまに表現されていたようです。
 
 私たちが現在幻獣を見るとなると、ほとんどの場合、それらを「幻獣」「空想」「ファンタジー」と考えて描き表現するクリエイターの作品を通してのものとなります。そのような表現も悪くはないのですが、幻獣の実在を疑わなかった・日常のものとしていた文化の人々による幻獣イメージの表現にくらべると、いまいち魅力が減ってしまうことが、私の場合、多々あります。そんなわけで、今回の展覧会はストレートに私の胸をつく内容であったのは確かです。
 展示物が少なくて小さいのばっかりだったり、カタログがややお子様向けになっていたり不満はありますが……。


写真家・六田知弘の近況というページで、当初から古代オリエント博物館の展示企画に関わっていたらしい六田さんによる近況報告が行われているのを見つけました。その他の記事も色々面白いので美術に興味のある人はどうぞ。