ウラルのマリ人の精霊の名前の発音

 キャロル・ローズさんの事典には、私がAmazonのレビューに書いているように、数多くのケレメトが日本初紹介されています。
 ケレメトはウラル地方の少数民族マリ人(旧称チェレミス)の信仰に知られている精霊的存在です。巻末の地域別一覧を見てみると、かなりの数のケレメトが紹介されていることが分かります。そして、参考文献を見ると、すべてThomas A. SebeokとFrances J. Ingemannの"Studies in Cheremis; the Supernatural"から引かれていることが分かります。

 ただ、キャロルさんはもちろんこの原書を参照したに違いないのですが、日本語訳では訳者たちはこの著作を参照しなかったようなので、いくつかカタカナ表記におかしいところが見られます。
 今、私の手元に原書があります。そこには発音ガイドも書かれています。なので、どうせならということで、ネット上に正確な発音の情報を残しておきます。

 母音に挟まれるか、またはある位置においては/b, d, g/は[β, δ, γ]と発音される。他のところでは[b, d, g]である。
⇒βとδとγはカタカナ表記はバダガ行でいいと思うけど、実際は異なる。

 čはチャ行の音に近い。

 əはあいまい母音で、その音価は全体的に先行する母音または子音の場合による。

 ’は先行する子音が口蓋音化することを意味する。
⇒t'だとティではなくチとなる。

 šとžはそれぞれシャ行、ジャ行に近い。

 xは無声軟口蓋摩擦音である。
⇒ハとカの間のような音。カタカナではハ行。

 ηは軟口蓋鼻音である。
⇒鼻濁音。ング。

üとöはそれぞれ円唇前舌高母音、円唇中舌前母音である。
⇒ドイツ語のと同じ?

 こんな感じでした。


 現代の専門的な知識については松村教授という人のマリ語の研究・エッセイというページをどうぞ。