人類の進化

少し前に流行ったフォトンベルトアセンションもそうですが、オカルト系というか精神世界系の一大潮流として人類まとめて(または、選ばれた人だけ)高次の存在へ進化!という思想があります。
これはフィクションにも影響を与えていて、とりあえず有名どころだとスタンリー・キューブリック&アーサー・クラークの『2001年宇宙の旅』がありますし、日本でも大友克洋AKIRA』、士郎正宗攻殻機動隊』、それに庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』といったエポックメイキングな作品も終盤はよく似たような展開になってます。とくに『攻殻』と『エヴァ』は、前者は作者の嗜好というべきかちょっと和風オカルトへの志向があるし(実際はアーサー・ケストラーのホロンと関係あるらしいけど; Ghost in the ShellGhost in the Machineを真似している)、後者のほうは97年くらいまでに青土社から出版されていたオカルト系書籍(それと平凡社の『イメージの博物誌』シリーズ)をフルに活用した痕跡が認められます。
某所で少しだけ言及したのですが、人類が精神的に高次の存在へと進化するという思想は、古代からありそうでいて、直接見るとせいぜいヴィクトリア朝時代にしか遡れない思想だったりします。要するにチャールズ・ダーウィン(およびラマルク、ウォレスなど)の生物の進化論が出発点なわけです。それからハーバート・スペンサーやルイス・モーガン社会進化論カール・マルクスフリードリヒ・エンゲルス科学的社会主義、そして以下にも少し書きますがシュタイナーの人智学的進化論が連なっているわけです。このあたりのうちの一部はピーター・ボウラー『進歩の発明』に詳しく書かれています。

で、こういうのに少し興味を持ち始めたのは、たまたま松岡誠剛がテオドア・ローザクの『意識の進化と神秘主義』を紹介していたのを見つけたからで、60〜70年代のオカルト思想について学研の『神秘学の本』しか知識がなかった私はさっそく買ってみましたよ、という話です。
でも、やはりこの手の進化論的近代オカルティズムの始源としてはルドルフ・シュタイナーがあれこれ語っている、というので、年代的にもこのあたりがよかろう、と『神秘学概論』まで買ってしまったわけです。なんというか、これまではフレッド・ゲティングズ『オカルトの事典』でしか知らなかった人智学用語がちりばめられていて、なるほどルツィフェルとかアーリマンとかはそういう位置づけなのか、とか、勉強になります。一通り消化したら、事典本体に追加するつもりです。
それにしてもシュタイナーは第1章で神秘学と自然科学の方法論を主張していますが、哲学の方面でエトムント・フッサールマルティン・ハイデッガーに始まる現象学やそれに影響を受けた諸学がものすごく発展したり、とくに近年のInterdisciplinary Discipline(「越境専門」)たる認知科学の隆盛を見たら、ちょっと悲しくてむなしい言い訳のように思えてきます。

ところで志水一夫『トンデモ超常現象99の真相』で「『2001年宇宙の旅』以前は、チャネラーが『宇宙意識』のようなものと交信することはなかった」(それまでは具体的な宇宙人とか神様だった。つまり、映画に影響を受けて、交信していると主張される主体が変化した、ということを彼は言いたいわけ)と書いているのですが、本当にそうなのか、よくわかりません。