世界中の文化を扱った事典の和訳

 アンナ・フランクリンの『妖精百科事典』(リンク先自作自演っぽいレビューがあるけど無視しましょう。たしかに値段相応とはいえないかもしれないけど!)を図書館で読んだ、ということをコメントに書いたのですが、この邦訳はけっこう良心的です。まぁ内容がほとんどヨーロッパに偏っているのはあるとしても、日本に情報の少ないケルトやスラヴ(ロシア)言語について専門家に話をうかがったとあるし、それが実際の表記からもなんとなく読み取れます。もちろん私はケルト専門家でもなんでもないんですが、それでもアイルランド語のchがチャ行ではないということぐらいわかります・・・アイルランド語のなかに方言や時代によって差が相当あるにしても。そういう意味でこの事典は個人的にはかなり評価が高いです(項目ごとの参考文献はないけど、注釈は400くらいついているし、参考文献を見てみてもローズと違ってけっこう多くの原典に当たっていることがわかるし、なぜか自分が妖精になりきってるが・・・)。あと値段も高いですけど。

 それに対して和光大学松村一男教授が監修してるはずのキャロル・ローズの事典は両方とも日本語表記の基準がほぼ完璧に意味不明。ウェールズ語については『マビノギオン』にある単語以外、英語読みに近いし、北米先住民の単語にいたってはもはや基準さえ存在しないっぽいです。

Teelget→デルゲェド デってどこから?最初の音節の母音のほうが二番目の音節より長そうなのになんでゲェになってるわけ?
Teehooltsoodi→ティーフールツォーディ ooが最初はウーなのに二番目にはオーになってる。
Tcinto-saktco→チント・サクトコ tc、最初はチャ行なのに次はト+カ行になってる。
Tcipitckaam→チピトカーム 最初のtcはチャ行、次のtcはkと融合してト+カ行。
Xólotl→ゾロトル 普通はショロトルですよねぇ
Kukuweaq→ククウィーク そうか、先住民の言語でもeaはイーなのか。
Guyascutus→グヤスクトゥス これはアメリカの「ホラ話」の怪物。ほかの怪物たちは英語風の読みなのに、なぜかこれは「イタリア風」読み。ちなみにちくま文庫から出てる何とかかんとかにはガイアスカタスというきれいなカタカナ表記が見られる。

両者を見比べてみると、ローズ著松村邦訳の訳者あとがきにある言い訳(各国語の訳が難しい・・・)はもう本当にただの言い訳にしか聞えないですね。『世界の神々の事典』もそうだけど松村一男って最近吉村作治化してない?