ユニコーンの起源は狩猟神話にあり?

 Folkloreっていう、由緒正しいイギリスの民俗学雑誌の比較的新しいやつ(2003年、Vol.114)を見てたら、ユニコーンの起源についての考察がありました。なぜか無料で読めます。the association of the lady and the unicorn, and the hunting mythology of the caucasus by David Hunt.

(Googleってとうとう翻訳機能までつけたのね。ということに今気づいた)

以下、toroiaによる要点の超訳!!!!

 要約
 コーカサスの狩猟民俗資料にある書かれた証拠は、ユニコーンの起源に狩猟神話があるのではないか、ということと、その残余がフランスの「貴婦人と一角獣」のタペストリーに見られるのではないか、ということを示唆するものである。
 イントロ
 この論文では、特にコーカサス山岳地帯における狩猟女神崇拝の生き残りの記録を踏まえ、ユニコーンと女性の間にある関係を検討する。狩人はこの関係の中では補助的なものだろう。この論文の骨子は以下のとおりである。
・古典的なユニコーンの叙述。ほとんどすべてが狩猟に言及し、多くの場合山岳にも言及している。ヨーロッパと近東における山岳地帯では、狩人にとってもっとも重要な獲物は一般的には山羊、アイベックスまたはシャモアである(低地森林帯では鹿であることが多い)。
・古代のユニコーンについての描写は、たいてい山羊に似た多くの特徴を備えている。
・すべての狩猟文化において、所有者が存在する。場合によっては主人だが、それよりも野獣の女主人であることが多い。
・野獣の所有者についての物語は西ヨーロッパでは廃れたが、コーカサスの山岳地帯では依然として存在している。その中での所有者の特別な動物たちは伝説のなかのユニコーンと一部共通する特徴がある。
・女性と野獣の関連についての伝承が2通りに分岐している西ヨーロッパでは、記録された残余は少ない。この2通りの伝承は、「貴婦人と一角獣」と題されたそれぞれ1500年ごろの2組のタペストリーの間のコントラストに要約される。一つはニューヨークのメトロポリタン博物館にあり、狩人が、単に野生のユニコーンを捕らえるためのおとりとして処女たる女性を使い、それが女性のひざに寝るため捕らえたり殺すことができる、というものである。もう一つはパリの国立中世博物館(? Musee National du Moyen Age)にあるもので、女性は、ユニコーンと、ライオンと思われる大型の猫科動物を所有しているか、統制しているように見える。後者のタペストリーでは、彼女はあきらかに動物たちに対して権威ある位置におり、狩人の痕跡は見られない。

 [最後のパラグラフ]
 証拠は状況的で乏しいわけだが、私としては、ユニコーンの起源はコーカサスにおけるトゥル(tur)によって例証されるように、山のヤギまたはアイベックスであると言えると思うし、貴婦人と「ライオン」そしてユニコーン、という形態もまた古代の狩猟神話の中心にあたるものではないかと考える。このテーマを発展させていくに当たっての難題は、まず文献的な資料がコーカサス山岳地帯に残ってはいるが、それらは19世紀以降の収集による口承伝承でしかないこと。もう一つは、ヨーロッパのほかの地域における証拠に乏しいこと、である。でも、私としては、この論文で示した材料がユニコーン伝承の起源に光を当てるものであると思うし、ユニコーン研究全般や、「貴婦人と一角獣」のタペストリーを特に研究するにあたっては真剣に考慮されるべきであると思う。


 だそうです。

 問題点。古代の著述家は、ユニコーンと女性の関係について一切触れていないし、ユニコーンと捕食動物の関係についても、一切触れていない。このブログで起源を探究するときの最大の焦点となった「足」の問題が全然扱われていない。インダス文明メソポタミア文明では前2500年くらいにすでに一角獣の図像があるのに、それについてもスルー(というか、一角獣の最古の図像としてエジプト版鳥獣戯画をあげているが、それ、インダス文明の印章より10世紀もあとのものですから。残念!)。
 全体的な印象としては、「一角獣と女性とライオン」つー三位一体の起源については狩猟神話に求めても問題はないと思いますが、一角獣そのものの起源までコーカサスの動物に求めてしまうのは早計だと思います。ついでに、狩猟神話もコーカサスにこだわることはないかと・・・。