最近の「幻想動物の事典」の傾向について、一言二言

 「最近」といっても、ここでは5月終わりごろからのことですが。
 特に6月1日に追加した「アンラ・マンユ」以降。6月5日の「ドラコス」、6月8日の「ジズ」、6月20日の「ガルダ」、そしてこのブログでも大々的に話題にしてきた6月25日追加の「ユニコーン」、最近の例では8月9日追加の「フン・カメー」など。

 どれも共通しているのは、「原典からの引用・要約をできるだけ多くしている」ということです(ガルダはかなりマイナーなものを一つだけですが)。「ジズ」なら聖書から該当部分を新共同訳で丸々引用していますし、「フン・カメー」では事典内でも指折りの項目の長さになるほどの量の内容を、原典の「ポポル・ヴフ」を元にした粗筋を載せています。今は、多少の簡易性は犠牲にしてまでも、より詳細な情報をできるだけ生のまま(著作権法に触れることのない範囲で……でも十分怪しい気もするが)、掲載しようとしています。
 当初のこの事典の内容は非常に素っ気のないものでした。もう4年前くらいになるのですが、そのころは「幻想動物の名前事典」というウェブサイト名で、その名のとおり、「名前」しか載せていませんでした。説明のところにあるのは、「地域/文化名」のみ。そうやって名前だけを面白がって追加していくうちに、やっぱり内容もあったほうがいい、と思うようにもなりました。これが個人的な利用のためだけだとしたら今も名前だけコツコツ入力していたのだとは思いますが、オンラインで世界中の人に参照される可能性があるということを考えた場合、そして、これが重要なことなのですが、他に似たようなウェブサイトが存在する場合、自分の「事典」があまりにみすぼらしく見えました。
 そこで、説明を付け加え始めました(逆に考えれば、説明未掲載の項目はそのころから手をつけてない、ということで)。でも、その多くは非常に素っ気無いものに留めておきました。例えば「ルキフェル」の項目はそもそも説明ではなく読み方について注意しているだけですし、「エキドナ」も「様々な怪物を生み出した怪物。」だけで終わらせています。そのころは、とにかく説明未掲載の数千の項目を埋めることを最優先にしていました。
 でも、その傾向もすぐに終わりました。これまた上と似たような理由で、図書館や書店と違って、ネット上では検索エンジンの出力結果をうまく利用すれば簡単により複雑で詳細な情報にたどりつくことができます。だとすれば、簡単な説明だけを苦労して載せる理由はないのではないか。なぜなら、すぐに他のページで詳細なルキフェルやエキドナの情報を手に入れることができるのだから……。
 だとすれば、ウェブサイトをあくまで公開したまま進む道は2つ。そして、私は現状のように、できるだけ詳細な情報を提供しようという道を選んだわけです。

 この選択はかなり早い時期にしました。でも、いざそれを実行しようとすると、途方もない労苦の山が目の前に待ち受けていることを知ることになったわけです。当たり前です。この「事典」の収集範囲は最古の文字記録があるシュメールから21世紀の現代日本まで、人間が想像力を無意識に働かせたすべての文化です。天才や秀才が100年以上専門的に研究したって到底すべての文化に通暁することはできませんし、そもそもしようと思う人はいないでしょう。私も「幻想動物」に範囲を限定してはいるものの、当然のごとく、「幻想動物」を書くに当たって必要な膨大な量の基礎知識を要求されたわけです。でも生来ナマケモノで面倒なものはできるだけ避けながら暮らしていきたい私の性分としては、そんな手間暇かかるようなことをやろうなどとは、考えただけで考えたくなくなるほどのものでした。
 でも、ほかのウェブサイトにあるレベルの情報は提供したい。その「ほかのウェブサイト」がたとえ特化したものであっても。そう思って、本は読んでみます。そして、項目としてまとめてみることを想像してみる。考えたくなくなる。この板ばさみループのなかで、たまに運良く絶対的な情報量が少ないものが新規に追加され(仏典にある薬叉など最たる例)、あれこれ書かねばならないことが予想される項目については頭の片隅にためておく、という状態がしばらく続いています。これは今もです。たとえば「ドラゴン」のように、絶対に個人では把握できないような数の物語や伝承を持つ存在については、それこそ「ドラゴン」の項目の愚痴に書いたように(つまり、「ドラゴン」のイメージを優先すべきか、「ドラゴン」という言葉の用法を優先すべきか、という問題)、一般的な説明は理想像でしかなく、実際にそのようなドラゴンの伝承は存在しないものになってしまっています。だから、できるだけ個別の事例を挙げて、ドラゴンの共通したイメージについては読む人に任せるのが最も平等で公平な方法だと考えています。とはいえ、そういうのが不満な人のために、私個人のイメージを冒頭に書いていますが、事典としては事実の羅列だけではなく、作者による「まとめ」も必須であることは確かです。また、先に書いたようにドラゴンに関する情報はそれこそ星の数ほどありますから、どのあたりで区切りをつけるものか、そのあたりも悩んでいて、答えは出ていません。
 恐ろしいのは、対して情報もないだろうと思ったものが、たとえばネット上で検索してみると予想以上に情報をもった存在であることがわかったりすること。しかもそのような実例は増えることはあれど決して減ることのないものですから、空欄を情報で埋め尽くすという「課題」は山積していって、ますますやる気がなくなってしまうわけです。それに、この事典についての意見や感想といったものが全くといっていいほどないので、一人相撲をやってる気分になりむなしくなることも多々あります。しかも、私の興味が「幻想動物」だけに向いているのならばいいのですが、当たり前ですがそこまで趣味が偏った人間ではないですから、より安易な「その他の趣味」へと時間を割いてしまうことも多くなってきます。
 でも、極稀に、長い原典から粗筋を紹介してみよう、とか、「ミトティン」の項目にあるように、その専門筋の論文(特に、ネット上ではあまり知られてない)を軽く要約してみよう、とか思うこともあります。それが上記のいくつかの項目として現われているわけです。

 このようなブログを書いたことによって、これからそのような「詳細な情報」を持った項目は指数的に増えるのか? それはないと断言しますw。でも、今、私の手元には上村勝彦さんの『インド神話』や『千夜一夜物語』があります。

 以上、類似したウェブサイトが多いウェブサイトの管理人で、さらに個性をできるだけ出さない方針にしているため、どうしても独自色が出せない人間の独り言でした。。。