クリュセイオン・アオル

メドゥーサの切断された首からほとばしる血より生まれでた、ペガソスの兄弟クリュサオル。ヘシオドスの『神統記』によれば、その意味は「クリュセイオン・アオル」すなわち「黄金の剣」であるとされる。
そのクリュサオルと、オケアノスの娘カリロエとの間にうまれたのが、三身の怪物ゲリュオン。しかし放牧中にヘラクレスがやってきて、殺されてしまうのだった。

3つの身体を持つという一見奇抜なイメージの持ち主であるゲリュオンを現代の人々はどうやって書いているのかと思いぐぐってみたが、思いのほか見つからない。そもそもWikipedia日本語版にさえ項目がない。クリュサオルの項目はあるのに! よっぽど人気がないらしい。Geryonで検索してみても、ダンテの『神曲』にでてくるジュリオーネばかりヒットするのだ。
それはいいとしても、上記のように説明されるとゲリュオン老酒氏のウェブサイトにあるイラストのように野蛮人(……っと、最近この言葉を使った政治家がいたな)っぽくイメージされることが多いと思う。
が! 実は古代ギリシアにおいては敵であるヘラクレスのほうこそ野蛮人っぽい格好で、ゲリュオンのほうはそうでもなかったのだ。
具体的に言うとヘラクレス棍棒か弓矢を手に持って、身に着けているのはライオンの皮だけである。それに対してゲリュオンは、原則として鎧兜に盾と槍を持った重装歩兵の格好をしているのだ。抒情詩人ステシコロスがそんなゲリュオンに心情を寄せて詩を詠んだというのはずっと前に書いたことがある。

以上は余談。

インド・ヨーロッパ語族の比較神話学によると、「竜退治の神話」は、ギリシアにおいては、メドゥーサとその孫ゲリュオンに分割されて保存されているのだという。なぜゲリュオンにこだわるのかというと、「3重の」というのが「竜退治の神話」にとって重要だからだ。では、その間にあるクリュサオルは?……「剣」である。
となるとこれはもしかして、ギリシアにおける、関連性があまりなさそうな「竜と剣」を結びつけるヒントになるのかもしれない。ただしクリュサオルの神話はほぼ残されていない。そこが問題だけど、逆に言えば妄想を働かせる余地が大量にある、ということでもある。

Theoi Projectのページには「クリュサオルはたぶんエリュマントスの猪のこと」とあるけど、証拠と論理が弱すぎると思う。