インドの体内の虫

まだ蟲蟲続けます。

『スシュルタ・サンヒター』というインドの医学書(〜6世紀ごろ?)の補遺第54章は「内臓寄生虫病治療法」krimirogapratiṣedha(クリミローガプラティシェーダ)と名づけられていて、体内に生ずる寄生虫が20種いると述べています。*1

細かいことは抜きにして、並べてみます。
糞便に棲む(現代医学でいう寄生虫?)

  1. アヤヴァ
  2. キピヤ
  3. チピヤ
  4. ガンドゥーパダ 赤色で長く、肛門を降りてくるときはかゆみを感じる
  5. チュール
  6. ドヴィムカ

粘液に棲む。身体のあちこちを食い荒らす

  1. ダルバプシュパ
  2. マハープシュパ
  3. プラルーナ
  4. チピタ
  5. ピピーリカ
  6. ダールナ

血液に棲む

  1. 食髪の虫。目に見えない
  2. 食毛の虫
  3. 食爪の虫
  4. 食歯の虫
  5. キッキシャ
  6. 皮膚病所生の虫
  7. 癪病誘発性の虫

19種しかないんですけど*2。さりげなくピピーリカ寄生虫にされてしまっているのにも注目。
この章では実に多くの病気や障害がこれらの虫のせいにされています。しかも発生の原因は「前食べたものが十分消化しきらないうちに新しいものを食べたり、慣れないものを食べたり、穢れたものを食べると、あるいは運動不足、昼寝、消化重難、メタボ、冷たすぎる飲み物などを食べると色んな食材によって粘液などに寄生虫が生じるのである。胃腸に産まれるという」。昼寝まで原因だそうです。アイスなどもってのほか。
退治方法も色々書かれていて(それが本題)、ここでは大幅に省略しますけど、馬糞のエキスだとか錫の粉末だとか、あれこれ危険そうなものを使えと散々行った挙句「要するに乳、肉、酢、酪、葉菜、酸っぱい・冷たいものを避けるべし」で終わっています。
『正法念処経』には少なくともこうした対処方法はかかれていなかったので観念的なものかとも思いましたが(宗教書であって医学書ではないから当然ですが)『スシュルタ・サンヒター』を見てみると、インドのこの時代(正法の成立年代は2〜5世紀ごろ)は実践的に虫の分類や退治が考えられていたようです。ただ、具体的な姿はよくわかりません。「毛が生えていたり尾が生えていたりする」と書かれているからにはあまり現代医学的なパラサイトとは関係ない気もします。ガンドゥーパダは回虫かその仲間っぽいですけど。

あと同時代か少し前に成立した医学書『チャラカ・サンヒター』(スシュルタと並んでアーユルヴェーダの2大基本文献)にもあるそうだけど、未見。

やはりインド起源のようだ。

*1:大地原誠玄(訳)、矢野道雄(校訂) 1993 『スシュルタ本集<第2巻>』 pp. 785-86。

*2:よくあることですが。それともドヴィムカ(2つの口)が2種にカウントされているのか?